イラン戦争警戒 1800円安|日経反発の主体は

· Nikkei

急落と反発の非対称

日経平均は本日、一時1843円安という今年有数の下げ幅を記録しました。しかし大引けは38円高と、ほぼ全値戻しの反発で取引を終えました。この非対称な動きが今日の分析の中心です。

前日のニューヨーク市場では、ダウ平均が953ドル安となりました。米消費者物価指数の加速でインフレ再燃が意識された直後、トランプ大統領がイランへの再攻撃を警告したことで、戦争激化リスクが急浮上しました。原油先物は91ドル台へと反発し、米長期金利も上昇して、株式市場のバリュエーション圧力を一気に高めました。

東京市場は翌朝、この二重の逆風を受けて850円安で寄り付きました。外資系の先物売りが先行し、ソフトバンクグループ(9984)が7%超安、フジクラ(5803)が大幅続落、ファーストリテイリング(9983)が日経を押し下げる展開でした。下げ幅はその後1800円を超え、心理的節目の6万3000円を一時割り込みました。

ところが売り一巡後、相場は急速に切り返しました。価格から読み取れる限り、押し目買いが集中したのはAI・半導体関連の一角でした。東京エレクトロン(8035)が2%超高、イビデン(4062)が4%超高、キオクシアホールディングス(285A)が7%超高と逆行高を演じました。外国人の先物売りが短期ポジションの手仕舞いへ移行したと解釈できますが、買い主体が誰であったかの直接データは現時点では確認できません。価格・出来高の動きからは、6万3000円割れを機に機関投資家の押し目買いが入ったことが推測されます。

問題は、この買い戻しがどれだけの持続力を持つかです。地政学リスクが解消されていない中で、特定セクターへの資金回帰が続いた背景には、単なる自律反発以上の理由があるはずです。その根拠を次の章で確認します。

キオクシア逆行高の構造

キオクシアが今日7%超高と逆行した背景には、SMBC日興証券が10日付で目標株価を4万8000円から12万6000円へと大幅に引き上げたことがあります。前日比倍以上という引き上げ幅は異例であり、この格上げが外資系の買い戻しを後押しした可能性が高いです。

重要なのは、この動きがSOX(フィラデルフィア半導体指数)の下落局面で発生したことです。米国のハイテク株が地政学リスクとインフレで売られる環境の中で、日本の半導体銘柄への選別的な資金流入が起きました。これはセクター全体への強気転換ではなく、個別バリュエーション評価の修正に反応したポジション変更です。SMBC日興のレポートが「キオクシアの業績予想を大幅に引き上げた」と報じられており、これを受けた機関投資家が既存の低ウェイトポジションを積み増したと解釈できます。

一方で、同日にフジクラ(5803)が大幅続落しました。同じAI銘柄でありながら、キオクシアとフジクラの明暗が分かれたことは、AI関連株への一律買いが終わり、アナリスト評価の裏付けがある銘柄とない銘柄の間での分別が始まったことを示しています。

外資は前場を通じてソフトバンクG(9984)を売り続けた一方で、キオクシアには買いを入れていました。同一日に同一市場で逆方向のフローが生まれたことは、地政学リスクを理由にした全面売りではなく、ポジション再構築の選別作業が進んでいることを意味します。

この選別の次の変数は、日銀会合です。利上げ確率と植田欠席という二つの変数が重なる来週の政策決定が、円安と株価のどちらを先に動かすかが、キオクシアを含む国内株の再評価継続条件になります。

日銀植田欠席と円安160円

来週15〜16日の日銀金融政策決定会合で、利上げはOIS市場で97%が織り込み済みです。ところが植田和男総裁が入院のため欠席するという報道が入り、市場は新たな不確実性を抱えることになりました。

利上げ自体はほぼ確実視されているため、利上げ実施は円高要因になりません。むしろ問題は、もし意見が拮抗した場合に副総裁が議長として裁定するという異例の構図です。植田総裁の書面出席という形式は、会合の意思決定に通常とは異なる重みをもたらします。

ドル円は本日160円台前半で推移し、今年の高値160.72円に接近しています。6月9日以降、160円を下回る場面がなくなっており、円安定着の構図が続いています。財務省・日銀は単独介入の可能性を排除していませんが、現在のボラティリティが低い環境では大規模介入に踏み切りにくいとの見方があります。

円安が続けば輸出関連株の収益には追い風ですが、原油高と重なることで家計購買力とエネルギーコストへの逆風も同時に強まります。この二方向の圧力が株式市場に与える合成効果は、単純に円安恩恵だけでは測れません。

今週の焦点は12日の米CPIです。米消費者物価指数がさらに加速すれば、FRBの利下げ転換期待が後退し、日米金利差が拡大する方向に傾きます。その場合、日銀が利上げをしても円安が止まらない状況が続く可能性があります。日銀会合後もドル円が160円台を維持し続けるようであれば、今日の急落から反発したAI・半導体株への買い戻しが継続できるかどうかの前提条件が崩れます。植田欠席という状況下で日銀が予想通り利上げを実施しても、円安が160円を超えて定着するなら、今日の反発は一時的な需給の歪み修正に過ぎなかったことになります。

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