エヌビディアの株価|業績とバリュエーションの乖離

2026-04-11 · Nikkei

割安な巨人のジレンマ

エヌビディアが発表した四半期売上高は780億ドルと、市場予想を50億ドル以上上回りました。通期の純利益は倍増の430億ドル、データセンター部門の売上高は前年同期比75%増の623億1000万ドルに達しています。しかし、これほどの好決算にもかかわらず、株価は年初から5%近く下落しています。

この乖離の背景にあるのは、売上規模ではなくバリュエーションの変化です。現在、同社の予想PER(株価収益率)は21.66倍。これは半導体セクター平均の23.57倍を下回る水準です。シェア低下と再編に苦しむインテルが87倍、AMDが約30倍、ブロードコムが24倍超で取引されているのと比較すれば、その低さが際立ちます。

市場はエヌビディアを、急成長プラットフォームではなく、成熟した景気敏感銘柄として評価し始めています。市場の疑念は、現在の圧倒的な支配力がいつ天井を打つのかという点に集約されています。ウェルズ・ファーゴのアナリストは、データセンターの売上目標1兆ドルは保守的すぎると指摘していますが、競合他社より低いマルチプルで取引されている現実は、決算書には現れない構造的リスクを市場が織り込んでいることを示唆しています。

インフラの脆弱性

AI特化型クラウドのコアウェーブ(CoreWeave)は、上場直後にAI開発大手アンソロピック(Anthropic)との長期契約を発表し、株価は13%急騰しました。GoogleやAmazonから巨額出資を受けるアンソロピックが同社を選んだことは、巨大テック以外のインフラが有力な選択肢となったことを意味します。

一方で、サーバー構築を担うスーパー・マイクロ・コンピューターには暗雲が立ち込めています。共同創業者のウォーリー・リャウ氏が、2024年から2025年にかけて25億ドル相当のサーバーを中国へ不正輸出した疑いで起訴されました。本人は無罪を主張していますが、経営への影響は避けられません。

同社は売上高の71%をエヌビディア製品に依存しており、長期的な供給契約も結んでいません。バーンスタインやサスケハナなどのアナリストは、エヌビディアが供給割り当てを通じて同社と距離を置くリスクを警告しています。コアウェーブの躍進とスーパー・マイクロの不祥事は、AIインフラの拡大が続く一方で、その供給網が特定の企業リスクに依存する脆弱な構造であることを浮き彫りにしています。

カスタム化と電力制約

エヌビディア一極集中からの脱却を図る動きも加速しています。ブロードコムのAI関連売上高は前年同期比106%増を記録し、マーベル・テクノロジーもAI向け光通信需要で株価が過去最高値を更新しました。背景にあるのは、汎用GPUから、特定のワークロードに最適化した「カスタムシリコン(ASIC)」へのシフトです。GoogleのTPUを筆頭に、メタなども独自チップの採用を進めています。

カスタムシリコンはエヌビディアを完全に置き換える必要はありません。追加の成長分を吸収するだけで、AIコンピューティング市場におけるエヌビディアのシェアを実質的に押し下げ、収益構造を変化させるのに十分です。

また、マイクロン・テクノロジーのHBM(高帯域幅メモリ)への需要も極めて旺盛です。同社の株価はこの1年で385%上昇し、エヌビディアの55.8%を大きくアウトパフォームしました。市場はすでに、GPUそのものよりも「メモリの帯域幅」をボトルネックと見なしています。

さらに、電力不足という物理的制約も無視できません。NVエナジーやPJMといった電力会社は、データセンター需要の急増により、脱炭素目標の延期や化石燃料への回帰を余儀なくされています。今後は、ワット当たりの計算効率が高いアーキテクチャを持つ企業が、構造的な優位性を持つことになるでしょう。

2つのシナリオ

今後の市場には2つのシナリオが想定されます。1つ目は、現在の割安感が解消されるシナリオです。75%の成長率を維持する企業のPERが21倍台に留まるのは異常であり、地政学リスクやインフレ懸念が和らげば、ウォール街の平均目標株価である268.8ドルへ向けた大幅な修正が期待されます。

2つ目は、現在のディスカウントが定着、あるいは拡大するシナリオです。スーパー・マイクロの不祥事がセクター全体の信頼性に波及し、ブロードコムやマイクロンのような「制約レイヤー」を握る企業へ資金シフトが進むケースです。この場合、市場の関心は「誰がAI計算を支配するか」から「誰が成長のボトルネックを解消できるか」へと移ります。

エネルギー制約が現実のものとなれば、汎用計算よりも効率性に優れたカスタムシリコンに軍配が上がる可能性があります。現時点では、エヌビディアの業績面での強さは盤石ですが、マクロ環境が変化しない限り、業績成長と株価パフォーマンスの乖離は続く恐れがあります。AI市場の付加価値が、GPUプラットフォームからメモリやカスタムチップ、電力インフラへと移り始めているのか。その岐路に立たされています。