テスラ8週続落|小型SUV投入と収益性への疑義

2026-04-11 · Nikkei

在庫急増が示す需要の変調

2026年第1四半期、テスラの販売台数は前年同期比6.3%増の35万8000台となりました。本来であれば増収を好感すべきところですが、発表当日の株価は5.4%下落しました。

市場が懸念したのは、販売台数ではなく生産台数との乖離です。同期間の生産台数は40万8000台に達し、1四半期だけで約5万台の在庫が積み上がりました。JPモルガンの試算によれば、売れ残り在庫は過去最高の16万4000台に達しています。

生産ペースが販売を大幅に上回る現状は、同社が成長モードではなく、生産効率を維持するために需要不足を在庫で吸収している状態にあることを示唆しています。2024年に1%減、2025年に9%減と、テスラの年間販売台数はすでに2年連続で減少しており、現在の停滞は一時的な現象とは言えません。

JPモルガンのライアン・ブリンクマン氏は、第1四半期の1株当たり利益(EPS)予想を0.43ドルから0.30ドルへ、通期予想を1.80ドルへと引き下げました。目標株価145ドルは、当時の株価から約60%の下落を見込んでおり、現在のバリュエーション維持に対する構造的な疑念を突きつけています。

キャッシュフローの悪化も顕著です。2022年時点の市場コンセンサスでは、2026年に357億ドルのフリーキャッシュフロー創出が予想されていましたが、現在は50億ドルの赤字見通しとなっています。この400億ドル以上の乖離が、期待された収益力が実現していない現状を物語っています。

174倍のPERを支えるもの

自動車メーカーとしての指標だけを見れば、テスラのバリュエーションは異常です。予想PER(株価収益率)は174倍から244倍に達し、業界平均の14〜15倍を遥かに上回っています。同社自身の5年平均である125〜147倍と比較しても、現在の株価は割高な水準にあります。

しかし、市場はテスラを一貫して「自動車メーカー」としてではなく、自動運転、ロボティクス、エネルギー企業としてのプレミアムを付与して評価してきました。問題は、そのプレミアムを正当化するための前提条件が揺らいでいることです。

モルガン・スタンレーは、設備投資(Capex)が2025年の85億ドルから2026年には200億ドル超へと倍増する一方で、キャッシュフローが赤字に転じる点を指摘しました。現在の株価を維持するには、監視なしの完全自動運転が間近であるという明確な証拠が必要だと分析しています。

一方で、強気派が重視するのはデータの蓄積です。テスラのFSD(フルセルフドライビング)による走行距離は100億マイルに迫り、600万台以上の車両が訓練データを供給し続けています。高精度マップとLiDARに依存するウェイモに対し、テスラのカメラベースのニューラルネットワークは、地理的な拡張性において構造的な優位性を持っています。この圧倒的なデータ量こそが、弱気派が見落としがちな変数です。

小型SUV投入への軌道修正

こうした状況下、ロイターはテスラが上海で全長4.28メートルの新型小型SUVを開発中であると報じました。価格はモデル3のベース価格である3万4000ドルを下回る見込みです。

この動きは注目に値します。テスラは以前、安価な「モデル2」計画を事実上中止し、ロボタクシーや人型ロボットへ舵を切る方針を示していました。ロボタクシー「サイバーキャブ」は承認を得たものの、現時点ではテキサス州オースティンでの運用に限定されています。

小型SUVの投入は、ロボタクシーによる収益化に時間がかかる中、目先の販売ボリュームを確保するために従来型の自動車ビジネスに頼らざるを得ない現状の表れです。2026年に200億ドルの巨額投資を行いながら、同時にBYDなど中国勢に対抗するための低価格車を開発するという、極めて重いコスト構造を抱えることになります。

欧州市場では2月、BYDの販売台数が1万7954台となり、テスラの1万7664台を逆転しました。中国国内でもテスラの第1四半期販売は16%減少しています。安価なSUVは、ロボタクシーのビジョンでは解決できない現実的な競争圧力への直接的な回答と言えます。

すべての焦点は、4月22日の決算発表に集まります。利益率の低下、記録的な在庫、200億ドルの投資、そして小型車計画。これらを矛盾なく説明し、新たな資本配分のストーリーを市場に提示できるかが焦点となります。

交錯する2つの将来予測

テクニカル面では、50日移動平均線が200日線を下回る「デッドクロス」が発生しています。株価は2025年12月の高値から30%以上下落し、年初来でも20%安と、8週連続の下落という苦境にあります。

今後のシナリオは2つに分かれます。弱気シナリオは、4月の決算で自動運転の実現時期が不透明なまま利益率の圧縮が確認されるケースです。JPモルガンの145ドルという予測は、174倍のPERが収益悪化という現実に直面した際の帰結を示しています。

一方で、回復への道筋もデータに裏打ちされています。エネルギー部門の売上高は前年比26.6%増の128億ドルに達し、収益源として成長しています。FSDの購読拡大や、他社が模倣できない100億マイルのデータ、そして上海生産の低価格SUVによるシェア奪還の可能性も残されています。

キャナコードは「買い」評価を維持し、目標株価を420ドルとしています。この大きな評価の乖離は、テスラを「利益率が悪化する自動車メーカー」と見るか、「自動車をデータ収集端末とする自動運転・エネルギーのプラットフォーム」と見るかの違いです。

テスラは今、真の転換点にあります。短期的には利益率の悪化による株価収縮の圧力が続く可能性が高いでしょう。反転のトリガーは、広域で展開可能な「監視なしFSD」の実現に向けた、検証可能なロードマップを提示できるかどうかにかかっています。