ファナック過去最高売上9096億円|NVIDIAとの提携が問う次の局面
決算と市場の温度差
ファナックが27年3月期の売上高見通しとして9096億円を示しました。過去最高です。純利益も11%増、営業利益率は23%まで改善する見込みです。発表翌日、PTSでは株価が6%上昇しました。数字だけ見れば、市場は素直に好感したように映ります。
ただ、ここで少し立ち止まる必要があります。この決算が示している需要の中身を見ると、HV・エンジン車向けロボットと、中国のNCおよびFA装置が牽引役になっています。つまり、今期の上振れ要因の一部は、電動化シフトで縮小すると言われてきたエンジン関連需要です。市場が「EVシフトでファナックは逆風」と語っていた時期とは、状況が変わっています。足元では、その縮小するはずの領域が受注を押し上げています。
なぜそうなったのか。中国では新エネルギー車と並行して、工作機械の内製化投資が続いています。ファナックのFA事業は26年1月から3月の受注が前年同期比4割増となり、全社受注の3割を占めました。この急増は単純なEV需要ではなく、中国製造業の設備更新と国産化圧力が重なった結果です。ここは多くの投資家が見落としているポイントです。
フィジカルAIという新しい文脈
同じ週、市場ではまったく別の話題が浮上していました。北京で開催された人型ロボットのハーフマラソン大会で、1位のロボットが50分26秒で完走しました。人間の世界最高記録57分20秒を約7分も短縮した数字です。この結果がフィジカルAI関連株の物色に火をつけ、菊池製作所は25%超の急騰を演じました。
NVIDIAのジェンスン・ファンCEOは昨年12月、ファナックとフィジカルAI分野で戦略的提携を結んでいます。フィジカルAIとは、ロボティクスと生成AIが物理空間で融合する概念です。この提携が報道されたタイミングと今回の決算発表が重なり、市場はファナックを「産業ロボの老舗」から「フィジカルAIのインフラ企業」として再定義し始めています。
ここで注意が必要です。ファナックの現在の収益はフィジカルAIではなく、従来型の産業ロボとNC装置で成り立っています。山口社長も「ヒューマノイドの部品加工需要が高まっている」と述べましたが、これはヒューマノイド本体を作るという話ではなく、ヒューマノイドを作るための工作機械を供給するという話です。この区別が、株価の文脈を読む上で決定的に重要です。
市場が見ていない反転リスク
モルガン・スタンレーは2050年の世界ロボット市場規模を4000兆円と試算しています。2050年には年間14億台が生産され、稼働累計台数は65億台に達するという見通しです。この数字は強烈な印象を与えますが、現在から2050年までの間には複数のシナリオが存在します。
ここで逆側のリスクを整理します。ファナックの今期見通しを支える中国需要は、地政学リスクと米中関税の影響を直接受けます。中国向けの設備投資が鈍化した場合、FA事業の4割増という受注ペースが持続する根拠は薄くなります。さらに、フィジカルAIの文脈で市場が期待しているヒューマノイド関連の収益貢献は、現時点では財務数値に現れていません。期待と実績の乖離が広がれば、バリュエーション調整の圧力になり得ます。
ただし、回復シナリオも同様に構造的です。中国でAIやヒューマノイド向けの部品加工需要が本格立ち上がれば、ファナックのNC装置とロボットは需要の最初の受け皿になります。部品を作る機械を作る、という川上ポジションは、ヒューマノイド市場が立ち上がる過程でむしろ安定した受注を生みやすい構造です。ABBロボティクスの買収計画など、グローバルな競合再編が進む中で、日本勢のシェアが再評価される局面も考えられます。
ファナックの本当の役割
安川電機を含む日本の産業ロボット勢は、フィジカルAI市場においてどこに位置するのかという問いが、今週の一連の動きの核心です。ソフトバンク、NEC、ホンダ、ソニーが国産AI開発の新会社を設立したことも、同じ週のニュースです。日本のテクノロジー各社がフィジカルAIのエコシステムを形成しようとしているタイミングで、ファナックはNVIDIAとの提携によってそのど真ん中に位置しています。
減速機ではナブテスコやハーモニック・ドライブ・システムズ、ベアリングではミネベアミツミが高いシェアを持つことも記事が示しています。これらの部品企業は、ヒューマノイドが量産される局面で固定費を変えずに出荷量を増やせる構造にあります。市場が菊池製作所のような企業に25%超の急騰を許容したのは、この川上構造への期待です。
ファナックの決算が示す核心は、過去最高という数字よりも、従来型需要とフィジカルAI期待が同時に評価される局面に入ったという構造変化です。証拠はFA受注4割増と、NVIDIAとの提携という二つのデータが同じ方向を指していることです。ただし、その期待が財務数値に定着するためには、中国のAI・ヒューマノイド向け設備投資が実際のキャッシュフローに変換される段階が必要です。その転換点がいつ来るか、それが今後のファナックと安川電機の株価を分ける条件になります。