ホルムズ海峡の緊迫|利下げシナリオへの影響
ホルムズの罠
トランプ大統領が「ホルムズ海峡は完全に再開した」と宣言したわずか数時間後の土曜日、イランは再び同海峡の封鎖を表明しました。この急転直下の事態に株式市場の反発は打ち消され、WTI原油先物は1バレル85ドルを突破しました。
この背景にはイラン政権内部の深刻な亀裂があります。アラグチ外相の再開表明に対し、イスラム革命防衛隊(IRGC)は即座に「配慮に欠ける」と反論。2月のハメイニ師死去後、最終決定権を掌握しつつあるIRGCは、世界経済への最大のレバレッジである同海峡を安易に開放する意向はありません。
世界の海上輸送原油の2割が通過する同海峡の混乱は、すでに実体経済を直撃しています。カナダの3月ガソリン価格は過去最大の21.2%上昇を記録し、総合インフレ率は2.4%へ加速。米国でも3月の消費者物価指数(CPI)が前年同月比3.3%と、2022年6月以来の速い伸びを示しました。BMOのアナリストは4月のインフレ率が3%を超えると予測しています。
米国防総省はペルシャ湾近海に留まらず、公海上のイラン関連タンカーへの臨検準備を開始しました。すでにマレーシアへ向かう5隻以上のタンカーが米海軍を避け航路を変更しています。火曜日にイスラマバードで再開される停戦交渉の期限まで48時間を切る中、元米外交官らは期限内の合意形成に極めて懐疑的な見方を示しています。
ウォルシュ氏の警告
原油ショックは、次期FRB議長候補のケビン・ウォルシュ氏にとって極めて困難な局面での登場となりました。
市場が織り込んでいた2026年の2回の利下げ観測は完全に消滅しました。FF金利先物市場では、4月28・29日の会合での利下げ確率はほぼゼロ、年内の利下げも五分五分の状況です。わずか数週間での劇的な見通しの変化は、ひとえにエネルギー価格の上昇によるものです。
火曜日の上院公聴会で、ウォルシュ氏はホワイトハウスの期待に反する踏み込んだ発言を行いました。「インフレは選択の結果であり、FRBがその責任を負うべきだ」と述べ、「低インフレこそがFRBの防護策であり、インフレ急進は市民に甚大な被害をもたらす」と強調。これは利下げではなく、金利据え置きを正当化する論理です。
利下げを期待して同氏を指名したトランプ氏に対し、ウォルシュ氏は金融政策の最終決定権はFRBにあるという明確な一線を画しました。予測市場での承認確率は依然94%と高いものの、大統領の期待とウォルシュ氏のタカ派的な姿勢との乖離は鮮明になっています。為替市場ではドル安が進行し、ポンドが対ドルで1.35ドルを突破。インフレの粘着性とFRBの規律重視、そしてドル安の組み合わせは、リスク資産にとって厳しい環境を示唆しています。
試されるAI投資
マクロ経済が逆風にさらされる中、アマゾンがアンソロピックへ最大250億ドルの追加投資を発表しました。アンソロピック側も今後10年間でAWSに1000億ドル以上を支出することを確約し、アマゾン株は時間外で2.55%上昇しました。
アンソロピックの年換算収益は、2025年12月の90億ドルから、2026年4月初旬には300億ドルへと、わずか4ヶ月で3倍以上に急増しています。AWSはアンソロピックのクラウド支出の約6割を吸収する見込みで、キーバンクはAWSのQ1成長率が30%に達し、さらに加速すると予測しています。自社開発の「トレインニウム」チップも、前年比3桁増の200億ドル規模の収益を上げています。
しかし、この成長物語もマクロの壁に直面しています。エネルギー主導のインフレで金利が据え置かれれば、高バリュエーションのAI関連株は真っ先に再評価の対象となります。さらにアップルでは、ティム・クック氏が9月1日付でCEOを退任し、ジョン・ターナス氏へ交代することが発表され、時間外で株価が0.8%下落しました。
構造的な矛盾も浮き彫りになっています。AIインフラ投資は加速していますが、インフレを引き起こしている原油高は、将来のAI設備投資コストを押し上げる要因となります。
今後の焦点は、火曜日の停戦交渉期限後のWTI原油価格、および4月28・29日のFOMC声明です。原油が75ドルを割り込み、FRBがエネルギー価格を「一時的」と表現すれば、市場回復のシナリオが現実味を帯びます。逆に85ドル超で高止まりし、FRBが緩和姿勢を完全に排除すれば、リスク資産の調整は一段と進むことになるでしょう。