ホンダ上場来初の赤字4239億円|株が8%上がった理由は

· Nikkei

過去最大の損失が出た日、資金はなぜホンダに向かったか

ホンダが14日に発表した2026年3月期の純損益は4239億円の赤字でした。1948年の上場以来、初めてのことです。数字だけ見れば、売り材料として十分すぎる内容です。ところがこの日、ホンダの株価は一時8.7%上昇し、市場予想を大きく上回りました。

この日の東京市場は全体として底堅い展開でした。日経平均株価は一時500円を超える上昇となり、取引時間中の最高値を更新しました。前日の米ナスダック総合株価指数が最高値を更新し、エヌビディアをはじめとする半導体関連株への買いが東京市場にも波及しました。アドバンテストや東京エレクトロン、キオクシアが高く、TDKや村田製作所も上昇しました。AIと半導体への資金集中が日経平均を押し上げた一方、TOPIXは0.43%下落し、相場の内側では銘柄間の選別が進んでいたのです。

米中首脳会談が14日から始まるという日でもありました。エヌビディアのジェンスン・ファンCEOがトランプ大統領の訪中に急きょ同行し、中国向け半導体輸出の行方に関心が集まっていました。貿易交渉の結果を見極めたいという雰囲気の中で、決算発表銘柄への個別対応が市場の中心にありました。ただ、ホンダの8%上昇は「個別の好材料」という言葉では説明しきれません。赤字幅が過去最大だったその日に、なぜ資金が流入したのでしょうか。

1兆5778億円の減損が「出口」に見えた理由

4239億円の赤字の内訳を見ると、EV(電気自動車)関連の損失は1兆5778億円に達していました。これは巨額ですが、投資家にとって問題だったのは損失の大きさではなく、その性質でした。減損とは、将来の収益が見込めないと判断した資産を帳簿上で一括して消す会計処理です。一度計上すれば、翌年以降にその分の費用は発生しません。ホンダが今期に「膿を出し切った」と判断できる根拠が、ここにあります。

実際、ホンダの三部敏宏社長は「脱エンジン」路線を事実上取り下げ、EV戦略の見直しを明言しました。2027年3月期の純利益については2600億円の黒字回帰を見込んでいます。これは市場予想を上回る数字で、株価が一時上昇した直接の引き金となりました。損失の全額を一期に集中させ、翌期から黒字に転換するという筋書きは、いわば「最悪期の確認」を示すものです。資金は赤字に反応したのではなく、その赤字が最後だという読みに反応しました。

ここで問題になるのは、2600億円という予想の前提条件です。ホンダはEV依存を縮小しながら、トヨタの強みであるハイブリッド技術に軸足を戻す方向を示しています。米国市場では関税の影響が続いており、日米貿易交渉の行方次第で収益の見通しが大きく変わり得ます。「赤字が終わった」という読みは、関税・為替・需要という3つの変数がすべて想定内に収まることを前提にしています。この前提が崩れたとき、2600億円の黒字予想は出発点に戻ります。

「最悪期通過」の相場が問う次の検証点

2009年、GMが米国史上最大規模の破産申請をした翌月、自動車セクター全体に買いが入りました。「最悪は終わった」という判断が、業績悪化の真っ只中でも資金移動を起こした事例です。今回のホンダも同じ論理が働いていますが、異なる点があります。GMの場合は政府保証という外部の支援が前提にありました。ホンダの回復シナリオを支えているのは、今のところ自社の戦略転換だけです。

今後の検証点は二つです。一つは2027年3月期第1四半期(7月発表予定)の決算で、黒字回帰の軌道が確認できるかどうかです。もう一つは、日米貿易協議の進捗です。自動車関税の水準が変わればホンダの米国事業の収益構造が直接変わり、2600億円という予想の根拠が変わります。円相場も変数で、ドル円が140円を下回る方向に動いた場合、輸出採算への圧力が強まります。

市場が現時点で「最悪期通過」に賭けている以上、次に出てくる四半期決算が黒字軌道を示せなかった場合の反動は大きくなります。一方、関税緩和が進み、ハイブリッド需要が米国・アジアで想定以上に伸びた場合、ホンダの株価は今日の水準から更に上値を試す余地があります。赤字の翌日に8%上がった株が問うているのは、「損失は終わったか」ではなく、「回復の根拠は自社の力だけで十分か」という問いです。

Link copied