ホンダ上場69年目の初赤字|V字回復の条件

· Nikkei

EV全振りの代償

ホンダが69年間一度も割らなかった黒字の壁が、2026年3月期についに崩れました。赤字の金額は4239億円ですが、問題はその数字より、なぜ今期にこれほど集中したかという理由の構造にあります。

起点はバイデン政権のEV促進策です。ホンダはその政策を前提に、北米でのEV3車種開発に経営資源を集中投下しました。ところがトランプ政権が2025年9月にEV促進策を打ち切り、さらに今年2月には温室効果ガス排出規制そのものの撤廃を宣言しました。規制が消えた市場では、EVへの設備投資は将来収益を生まない純粋なコストに転化します。

この政策転換が直撃した結果、北米EVの今年1月から3月の販売は前年同期比3割近く減少しました。ホンダが計上したEV関連損失は1兆5778億円に達しますが、この数字の意味は損失額そのものではなく、2年間の累計損失が約2兆円に上るという事実です。設備の減損だけでなく、部品メーカーへの補償コストが含まれていることが重要で、これはサプライチェーン全体への影響として資本市場が折り込んでいない部分でした。

三部社長は「将来に損失を残さないため、経営の意思として計上した」と述べています。この表現は通常の業績悪化の説明とは異なります。将来キャッシュフローを毀損し続ける資産を今期に一括処理する、つまり来期以降の損益を意図的にクリーンにする会計上の決断です。ところが、その「クリーンになった来期」が本当に2600億円の黒字を生み出せるかどうかは、今期の損失額とは全く別の問いになります。

HV転換の勝算と外部変数

今期の損失を一括計上した意味は、来期以降のP&Lから不良資産の重荷を除去した点にあります。しかしこの浄化が投資家にとって買いシグナルになるかどうかは、代替戦略であるハイブリッド車(HV)が北米でどれだけ収益を生み出せるかにかかっています。

ホンダは2027年から次世代ハイブリッドシステムを投入し、2029年度までに世界15モデルを展開する計画を示しました。注目すべきは、同システムを搭載した試作車2車種を5月14日の会見当日に公開したことです。これは通常の中期計画発表とは異なり、開発が既に実機段階にあることを市場に示す行為で、2600億円黒字予想の信憑性を裏付ける具体的な根拠として機能します。

反証として挙げられる条件が一つあります。ホンダの黒字転換予想は、中東情勢の悪化が一定水準以内に収まることを前提にしています。原油価格の高止まりは、ガソリン車・HV車への需要を一時的に押し上げるという側面もありますが、資材コストと輸出停滞を通じて利益率を圧迫します。トヨタが純利益3期連続減少を見込む中でホンダだけが急回復するには、北米のHV需要増加がコスト上昇を上回るスピードで実現する必要があります。

もう一つ見落とされている変数があります。三部社長は「インドや中国の新興勢力のやり方が、今や世界標準になっている」と発言しています。これはHV転換の成否が技術だけでなく開発スピードの問題であることを経営トップ自身が認めた発言です。BYDの開発サイクルは日系メーカーの半分以下とされており、ホンダが2027年モデルで市場投入するHVは、その時点で中国勢の同等製品と同世代の競争を強いられます。

27年3月期に2600億円の黒字が実現するかどうかの検証軸は一つです。27年から投入する次世代HVが北米で価格競争力を維持できているかどうか、その初年度販売データが出る時点で、三部社長が今日示した数字の意味が確定します。そこまでの間、EV関連の追加損失5000億円がさらに計上される見通しであることが、ホンダへのポジションを軽くしている機関投資家の論拠として残り続けます。

Link copied