レーザーテック急騰の本質|停戦未署名で65,000円は持つのか

· Nikkei

停戦期待と65,000円

日経平均が5月25日、終値ベースで初めて6万5158円を記録しました。上げ幅は1819円、一時は2000円を超える場面もありました。しかし上昇の7割以上は、署名されていない文書への期待によるものです。

トランプ大統領は23日、「合意はまもなく発表される」とSNSに投稿しました。翌24日には「交渉団に急ぐなと指示した」と投稿を修正し、イラン側も「合意破綻の可能性はまだある」と伝えています。覚書14項目の最終調整中であり、最高指導者ハメネイ師の承認にはさらに数日かかるとされています。それでも市場は動きました。

ニューヨーク原油先物(WTI)は日本時間25日朝の取引で、前営業日比5%超下落し一時90ドル台をつけました。2週間半ぶりの安値です。価格そのものより重要なのは、この急落が何を動かしたかです。原油高が続いていた期間、日本国内では長期金利の上昇圧力が高まっていました。エネルギーコストを通じたインフレ期待が10年債への売り材料になっていたためです。原油が急落すると、その圧力が一気に後退しました。

外国人投資家は東証プライムで買い越しに転じ、特に日経平均への寄与度が高い値がさ株に注文が集中しました。ソフトバンクグループ(9984)は上場来高値を約7カ月ぶりに更新し、時価総額が40兆円を超えました。東京エレクトロン(8035)やアドバンテスト(6857)も上昇しました。ただし東証プライム全体では値下がり銘柄が約55%を占め、買いの広がりには限界がありました。

停戦合意が実現すれば、トヨタが6月以降の減産台数を拡大すると発表している物流混乱も緩和されます。しかしこの株価水準は合意を前提としており、合意内容が市場の期待を下回った場合に、どの水準まで戻るかが問われています。

原油安とAI株の連鎖

原油安が日経平均を押し上げた経路は、エネルギーコスト削減による企業収益改善という直接効果ではありません。長期金利を通じた割引率低下が、AI・半導体株のバリュエーション拡張を引き起こしたという間接経路です。これを見落とすと、なぜソフトバンクGが最も大きく動いたのかが説明できません。

ソフトバンクGはAI投資事業会社として再定義されており、株価は将来キャッシュフローの割引現在価値に対する感応度が高い構造になっています。長期金利が0.1%ポイント低下するだけで、バリュエーションへの影響は数%に及びます。原油急落で金利低下期待が生じた瞬間、外国人機関投資家はこの銘柄へ資金を集中させました。価格から逆算すると、この動きは価値変化への反応ではなく、ポジション圧力の変化への反応です。

レーザーテック(6920)は同日12%超上昇しました。前週末の米フィラデルフィア半導体株指数(SOX)が2%近く上昇していたことが引き金になりましたが、それだけでは12%を説明できません。楽天証券はEUV検査装置「ACTIS A200HiT」の複数台受注と、2026年6月期の受注高上方修正を確認しており、売り方の買い戻し圧力が重なっています。受注回復の実績と長期金利低下期待が同時に発火したため、空売り残高の解消フローが上昇を加速させたと推測されます。ただしこの流れは価格・出来高の動きから解釈したものであり、直接の売買主体データが確認できたわけではありません。

S&P500は8週連続で週間上昇を記録し、4月末時点の米国信用取引残高は過去最高を更新しました。この外部環境が日本株への資金フローを後押しした一方、米国でのレバレッジ拡大が急速に進んでいることは、外部環境が崩れた場合の連鎖的な売り圧力を高めています。AI・半導体株への集中度が高いほど、その連鎖は大きくなります。

出光丸が問う合意の本質

5月25日、出光興産(5019)子会社のタンカー「出光丸」が愛知県知多市沖の係留施設に到着しました。通航料を支払わずにホルムズ海峡を通過し、サウジアラビア産原油約200万バレルを運んできた最初の日本関係船舶です。経済産業省幹部は「エネルギー安定供給の観点から非常に意義がある」と述べました。

この到着は、停戦合意が完成していなくても現実の原油輸送が再開できることを示しています。同時に、市場が期待している「ホルムズ完全開放」との間には大きな開きがあります。CNNによれば、イランのIRGCが過去24時間で30隻超の船舶に通航を許可した一方、ホルムズ海峡の通航条件そのものはまだ交渉中です。出光丸が通過できたことと、全タンカーが通常運航できることは別の話です。

出光丸の到着が確認した事実は二つです。第一に、ホルムズ通過は技術的に可能であること。第二に、通航料を払わない選択が通用したこと。この二点は、停戦合意の法的枠組みが確定する前から、物流の実態が先行して動き始めていることを意味します。株価が合意期待で上昇した一方、現実のエネルギー調達はすでに部分的に機能し始めているという非対称な状態が生じています。

現在の日経平均65,158円という水準は、停戦合意の正式署名と、ホルムズ海峡の完全・持続的な開放という二つの条件を織り込んでいます。5月28日から29日にかけてイラン最高指導者の承認結果が伝わると見られており、この水準が維持されるかどうかの最初の試験になります。合意が成立しても、輸送インフラの正常化に数週間かかるとすれば、原油価格の下落余地は市場が期待するほど大きくない可能性があります。日経を65,000円台に留める力は、合意署名そのものではなく、合意後に原油が実際にどこまで下落するかにかかっています。

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