ローム1936億減損それでも統合が前進|膿を出し切った先に何が待つ

· Nikkei

SiCに賭けた10年と、2期連続赤字の重さ

ロームが12日に発表した2026年3月期の最終損益は、1584億円の赤字でした。前の期も500億円の赤字でしたから、2期連続の大幅赤字です。その主因は、炭化ケイ素(SiC)パワー半導体の生産設備に対して計上した1936億円の減損損失でした。電気自動車(EV)市況の急速な冷え込みが、ロームが過去10年かけて積み上げた投資の一部を、一気に帳消しにした形です。

東克己社長は12日の記者会見で「過去のうみは、今回の大きな減損で出し切れた」と述べました。しかし市場はその言葉を素直には受け取りませんでした。ロームの株価は発表後の私設取引システム(PTS)で、終値比9%安の3610円まで売られています。26年3月期の売上高は前の期比7%増の4811億円と伸び、営業損益は108億円の黒字へ転じていましたが、それでも投資家はこの数字を評価する前に、2027年3月期の見通しである売上高5100億円・営業利益300億円が本当に達成できるのかを疑っています。

SiCは省エネ性能が高く、EV向けパワー半導体の本命として各社が競って投資してきた素材です。ロームの東社長も「いま思えば若干過剰だった」と認め、今後3年間の設備投資を年平均500億円に抑える方針を示しました。EV市況の低迷は「地政学や国の政策で大きく変わる市場だ」とも語っており、SiC需要の回復時期そのものが、特定の条件に縛られていることを示しています。

減損の翌日に加速する、3社統合という逆算

ここで一つ、注目すべき動きがあります。ロームは今回の決算発表と並行して、東芝・三菱電機とのパワー半導体事業統合に向けた協議を継続しています。過去最大規模の減損を計上した直後に、なぜ統合交渉が止まらないのか。これは単なる偶然ではありません。

ロームが1936億円の損失を一気に認識したタイミングは、統合交渉の前提条件を整えるという意味を持ちます。過大な設備資産を抱えたまま交渉テーブルに着けば、評価額を巡る調整が長引きます。今期に膿を出し切ることで、各社が出す事業・工場の価値を対等に比較しやすくなるという算段です。東社長が会見で「切り出す事業や工場などそれぞれの思いがある」と慎重な表現を使ったのは、交渉がまだ複雑な局面にあることを示していますが、同時に「スローダウンさせないようにしている」とも述べており、方向性は維持されています。

3社連合の役割分担は明確です。東芝は主流のシリコン製パワー半導体で電力関連など幅広い顧客基盤を持ちます。三菱電機はインフラ向け高耐圧分野が強みです。そしてロームはSiCと、アナログ半導体の技術・設計力を担う位置づけとなります。世界半導体市場が2026年3月に前年同月比79%増を記録し、日本も10カ月ぶりにプラス成長へ転じた今、この3社の技術資産を束ねることで、中国や欧米大手との価格競争に巻き込まれないアップストリームの地位を狙っています。

ただし、統合協議の前と比べて東社長の発言が「慎重になった」という事実は、資本効率よりも各社の事業主権を守ろうとする力学が、まだ交渉の中心にあることを示唆しています。減損で一度リセットされたからこそ、次の交渉余地が生まれた。そのリセットが実際に機能するかどうかは、夏をめどに予定されている東芝との事業統合方針の公表まで、確認できません。

SiC市場回復と3社統合、どちらが先に条件を満たすか

この問いがロームの株価を巡る中心的な変数です。2027年3月期の営業利益目標300億円は、今期比2.8倍という水準で、AI・データセンター向けアナログ半導体やSiCの需要回復を前提としています。太陽誘電が今期の営業利益91.2%増を予想し、ミネベアミツミが14期連続増収を達成するなど、部品・素材セクターの回復は確かに始まっています。しかしパワー半導体とAI周辺部材では、回復の速度と需要の性質が異なります。

過去の比較対象として参考になるのは、2015年前後のSolar向け半導体の過剰投資局面です。当時も需要蒸発から減損→再編という流れが起きましたが、業界再編が技術集約と価格決定力を生む段階に達するまでに、3年から5年を要しました。ロームの東社長が示した「今後3年で年平均500億円」の投資抑制期間は、その歴史的な再編サイクルとほぼ重なります。

継続シナリオの条件は、夏の東芝との統合基本合意です。この発表がなければ、3社連合のシナジーは実体を持たず、ロームのバリュエーション回復根拠が薄まります。一方、統合が進んだとしても、EV需要の本格回復が2028年以降にずれ込む場合、SiCの設備稼働率は低いまま推移し、減損前の積極投資を支えた前提そのものが問い直されます。

ロームの株価3610円が適正かどうかは、統合基本合意の時期と、27年3月期の四半期ごとの営業利益の積み上がりを確認するまで判断できません。「膿を出し切った」という言葉が本当に意味を持つのは、次の投資判断の精度が証明されたときです。東社長が会見で語った「強みを最大限に発揮できる役割分担」が、この夏に形を持つかどうかが、最初の検証点となります。

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