任天堂コスト圧力|Switch 2値上げでも利益は戻るのか

· Nikkei

任天堂の誤算

任天堂が5月8日に発表した今期見通しは、市場に強い違和感を残しました。前期は純利益が52%増という記録的な好決算でしたが、続く2027年3月期の純利益予想は3100億円——市場コンセンサス4270億円を約1170億円も下回りました。Nintendo Switch 2の販売が本格化する局面で、なぜ利益が27%も減る見通しなのか。

その理由は価格転嫁の限界にあります。同社は今期、メモリを中心とする部材価格の高騰と関税措置による原価増を約1000億円と見積もっています。この負担を吸収するためにSwitch 2を日本では5万9980円(従来比1万円増)に値上げしましたが、同時に販売台数予想は前期の1986万台から1650万台へと引き下げました。値上げが需要を抑制するという矛盾した構造が、利益の回復を妨げているのです。

市場はこの判断を即座に否定しました。11日の任天堂株は一時前週末比10%超安の6895円まで急落し、2024年8月以来1年9ヶ月ぶりの安値を記録しました。欧米の複数の証券会社も目標株価を引き下げています。ただ、注目すべき点は株価の反応よりも、そのコスト構造の変化です。メモリ価格の高騰はゲームハードだけでなく、スマートフォンや自動車用半導体にも波及しており、任天堂の1000億円規模のコスト増は業界全体のコスト圧力を映したシグナルでもあります。

原油とイランの連鎖

任天堂のコスト圧力が部材高騰から来ているとすれば、その部材高騰を加速させている外部要因が中東情勢です。トランプ大統領は5月10日、戦闘終結に向けたイランの回答を「全く受け入れられない」とSNSに投稿しました。この一言でWTI原油先物は日本時間午前11時時点で1バレル99ドル台へ上昇——前週末終値の95.42ドルから4%近い急騰です。

原油高は複数の経路で日本株を押し下げました。まず輸送コストの直撃を受けた川崎汽船が今期純利益29%減の見通しを示し、エネルギー輸入コストの上昇が製造業全般の収益を圧迫するという懸念が広まりました。日経平均はこの日、295円安の62417円で続落しています。長期金利も一時2.490%と27年ぶりの高水準に達し、債券市場では原油高がインフレ長期化シナリオを強化するとの見方が浮上しています。

ただし、原油高には二面性があります。エネルギー株のINPEXは4日ぶりに反発し、原油関連ETFにも買いが集まりました。問題は、この高止まりがどこまで続くかです。イラン和平交渉が暗礁に乗り上げた現状では、ホルムズ海峡の通行リスクは消えていません。「NACHO(ホルムズ海峡が開かれる見込みはない)」という市場用語が流通し始めているという事実は、この状況の長期化をすでに織り込む動きを示しています。

ベッセント来日と円の防衛線

原油高とコスト圧力が日本株を押し下げる一方で、為替市場では別の緊張が走っています。ベッセント米財務長官は5月11日から訪日し、高市首相・片山財務相・植田日銀総裁と会談します。この訪問の核心は、4月30日以来3回実施された日本政府・日銀の為替介入——累計推定5兆円規模——の正当性を日米間で確認することです。

昨年9月の日米財務相共同声明では、「過度の変動や無秩序な動きに対処するための介入」を認める合意が盛り込まれています。この枠組みの下で、政府・日銀は1ドル=160円を「防衛ライン」として維持し、155円以下への急騰を抑制する姿勢を取っています。ドル円は11日時点で157円台と、介入ゾーンから距離を置いていますが、市場参加者の多くは「介入が入ったところは米ドル買いのチャンス」として円安バイアスを維持しています。

ここに矛盾が生じます。円安が続けば輸入コスト——原油・部材——の円換算値が上昇し、任天堂のような製造業のコスト圧力をさらに増幅させます。日銀が利上げに動けば円高要因となりますが、銀行セクターへの追い風が「銀行」業種に注目資金を集める一方、輸出企業の収益見通しは複雑化します。検証すべき数字は二つです。WTIが100ドルを維持するかどうか、そしてドル円が160円の防衛ラインに再び接近するかどうか。どちらかが閾値を超えれば、今日の「続落」という表面的な読みは大きく書き換えられることになります。

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