任天堂17年ぶり過去最高決算|1万円値上げが示すリスクは

· Nikkei

スイッチ2が動かした1日

任天堂は8日、2026年3月期の売上高が2兆3130億円と初めて2兆円を超え、2009年3月期以来17年ぶりに過去最高を更新したと発表しました。純利益は前年比52.1%増の4240億円です。Nintendo Switch 2が初年度に1986万台という歴代最速ペースで普及し、業績をほぼ独力で押し上げた形です。

ところが同じ発表の場で、任天堂は5月25日からSwitch 2の国内価格を1万円引き上げ、5万9980円にすると公表しました。発売からわずか約11か月での値上げです。この日の日経平均株価は前日比120円安の6万2713円と反落しましたが、任天堂の株価はすでに7000円台半ばという過去1年間の最低水準近辺で推移していました。過去最高決算を出した企業の株が、1年間ほぼ底値に張り付いている。この乖離こそが、本日の核心です。

値上げの直接原因はNAND型フラッシュメモリの価格高騰です。2024年後半から急騰したNAND価格がSwitch 2の主要部品コストを直撃し、採算を静かに悪化させていました。支援材料として、ソニーも4月にPS5を9万7980円と約23%引き上げていました。業界全体でコスト圧力が高まっており、任天堂の判断は孤立した決定ではありません。しかし「好調の只中での値上げ」という事実は、来期への重要な問いを含んでいます。

過去最高の翌日に来期減益を予告した理由

問題の核心は、同日発表された2027年3月期の業績予想にあります。純利益は26.9%減の3100億円、Switch 2の販売台数は1650万台と今期実績から17%減を見込んでいます。売上高で過去最高を記録した翌年に大幅減益を自ら予告した企業は、何を見ているのでしょうか。

メカニズムは三段階で動きます。第一に、初年度の発売効果が剥落します。Switch 2発売直後の2025年6月に需要が集中した反動で、次年度は構造的な台数減少が避けられません。第二に、次世代タイトルの開発費と研究投資が増加します。第三に、為替前提をドル155円に設定しており、円高進行時の下振れリスクが膨らんでいます。

ここで今回の値上げの役割が明確になります。1台あたりの収益を上げることで、台数が減っても一定の利益を確保しようとする価格防衛策です。過去最高決算の当日に行われた1万円値上げは「好調の象徴」ではなく、「来期減少への保険」として機能しています。

反例として、2009年にソニーがPS3を5万円台から3万円台に値下げして市場を取り戻した事例があります。当時の選択は「台数回復で利益を稼ぐ」方向でした。任天堂は今回、正反対の賭けを選んでいます。値上げで需要が想定以上に萎縮した場合、台数減少と単価上昇が同時に進まず、保険が機能しない事態が生まれます。

2つの条件と来週以降の検証点

今後の焦点は二つに絞られます。

継続シナリオの条件として、NAND価格が高止まりを続け、Switch 2のブランド需要が価格弾力性を上回る場合が挙げられます。Switch 2は旧モデルとの互換性を持ち、既存のスイッチユーザー1億4000万人の乗り換え需要が底支えとなります。値上げ後の5月25日以降、販売データに急激な失速が見られなければ、来期の1650万台予想は保守的な数字として評価が変わります。

逆に崩れるシナリオは、NAND価格が下落に転じた場合です。値上げを決断した根拠が消えれば、競合他社との価格差が意識されます。特に中国市場ではXbox Seriesや国産ゲーム機との競争があり、499.99ドルという米国価格が需要に与える影響は国内より大きいです。米国では9月1日から値上げが適用されるため、夏のホリデー商戦前後が最初の測定点になります。

過去最高決算と来期減益予告を同日に出したという事実は、任天堂が「ピークを越えた」と自ら認識していることを示します。しかし株価が既に1年間底値で推移しているとすれば、市場はそれを先行して織り込んでいた可能性もあります。本当に問うべきは、1650万台の減少予想が「慎重な前提」なのか「実態に近い数字」なのかです。5月25日以降の国内販売動向と、9月の米国予約データが、その答えを最初に提供します。

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