企業物価前月比2.3%2014年以来|長期金利3%が視野に入る条件は

· Nikkei

「米国株高の翌日」に日経平均が1244円安になった本当の理由

4月の国内企業物価指数の前月比上昇率が2.3%でした。市場予想は0.8%でした。その差は1.5ポイント。これが今日の東京市場で何を起こしたかを追うと、日経平均1244円安という数字の意味が変わります。

前日のニューヨーク市場では、ナスダック総合指数が連日で最高値を更新しました。エヌビディアが4%以上上昇し、AIブームへの期待は衰えるどころか加速していました。その流れを受けて、15日朝の東京市場も日経平均が一時500円超の上昇で始まりました。半導体関連のアドバンテストやフジクラが買われ、6万3200円台まで切り上がる場面がありました。ホンダは前日の今期黒字転換見通しへの好感から逆行高を続け、自動車株にも買いが広がりました。

しかし午前10時過ぎ、流れが変わります。長期金利の指標となる新発10年物国債利回りが一時2.73%まで上昇し、1997年5月以来29年ぶりの水準をつけました。前日からの上昇幅は0.1%ポイントという、単日の動きとしては異例の大きさです。この瞬間から、半導体・AI関連株を中心に売りが加速しました。アドバンテスト1銘柄だけで日経平均を約307円押し下げ、後場には下げ幅が一時1700円を超えました。終値は前日比1244円76銭安の6万1409円29銭。2週間ぶりの安値水準です。

企業物価+2.3%が示す「インフレの質」の変化

長期金利はなぜ今日これほど激しく動いたのか。その引き金は、午前中に発表された4月の国内企業物価指数です。

前月比プラス2.3%は2014年4月以来の高水準でした。前年比ではプラス4.9%と2023年5月以来の高さです。内訳を見ると、石油石炭製品が前月比プラス11.8%、化学製品がプラス6.1%と突出しています。中東情勢の混迷が長引き、原油価格が高止まりしていることが背景にあります。食品パッケージのインキ不足という問題が各社を困惑させているのも、この原油高が化学品コストを押し上げているためです。

ここで重要なのは、このインフレが「需要主導」ではなく「コスト押し上げ型」だという点です。本来、コスト型インフレは景気にとってマイナスです。企業の利益を圧迫し、消費を冷やす方向に働きます。しかし債券市場は今日、この物価統計を受けて日銀の6月利上げ観測を一段と強めました。みんかぶの報道によれば、ハト派とされる日銀の増一行審議委員が利上げに前向きな姿勢を示したことも重なり、国内外でインフレ圧力が重なって見える状況が生まれました。

問題はここからです。長期金利が2.73%まで上昇すると、株式の割高感が意識されます。特に将来の成長に高い倍率がついているAI・半導体関連株への影響は大きい。分母の金利が上がれば、現在価値は下がります。市場関係者の中には「3%も視野に入る」という声が出始めています。ただし、3%という水準は単なる延長線上にあるのではなく、財政への懸念と原油高の組み合わせが続くという条件が必要です。その条件が満たされるかどうかは、今月末の日銀会合前後で試されます。

1997年との相違点と、今後の分岐点

長期金利2.73%という数字が1997年5月以来という事実は、当時を振り返る視点を提供します。1997年は橋本龍太郎政権下の消費税引き上げと金融機関の連鎖破綻が重なり、後に「デフレへの入口」となった時代です。しかし今の日本は、その時とは逆の方向に動いています。デフレではなくインフレの圧力が長期金利を押し上げているのです。

もう一つの参照点は2014年4月です。消費税が5%から8%に引き上げられた直後、企業物価も急上昇しました。あの時と今の違いは、当時は日銀が異次元緩和を拡大することで金利上昇を抑えたのに対し、今は日銀が利上げ方向に舵を切っているという点です。つまり政策の方向性が逆です。

今後の分岐点は二つあります。一つは、原油価格が現水準から更に上昇するかどうかです。ホルムズ海峡情勢について「米中で認識が一致した」との報道はありますが、依然として不安定な状態が続いています。原油高が続けば、企業物価は6月も高止まりし、長期金利への上昇圧力は持続します。もう一つは、日銀が6月の会合で利上げに踏み切るかどうかです。踏み切れば、長期金利の上昇は「正当化」され、株式市場は改めて金利水準に合わせた評価替えを迫られます。

長期金利が2.5%台に落ち着けば、株式市場の反発余地は生まれます。日経平均の週足で見た2万3000円台の押し目買い水準は6万円前後であり、そこへの接近が近づけば機関投資家の押し目買いが入る可能性があります。しかし、今日の下落を起こした仕組みが原油高という外生要因に根ざしている以上、明日確認すべきは日経平均の水準よりも、長期金利が2.7%を再び超えてくるかどうかです。それが維持されれば、今日の1244円安はスタートに過ぎないことになります。

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