円158円台 介入容認でも止まらぬ円安|利上げ観測で買われない理由は
6万円割れの一日、本当に見るべきは株ではなく為替
本日の東京市場は、日経平均が前日比746円18銭安の5万9804円41銭で取引を終え、5営業日続落となりました。終値での6万円割れは今月1日以来およそ3週間ぶりで、東証プライムの8割超が下落しています。表面の物語は明快です。前日の米市場で原油高に伴うインフレ警戒から長期金利が上昇し、その流れが半導体関連を中心に持ち込まれた、というものです。ただ、本日の本当の論点は株価指数ではありません。注視すべきは、円相場が159円台前半から158円92銭の正午水準まで戻り切らず、158円台に張り付いていることです。19日のパリでのG7財務相・中央銀行総裁会議後、片山さつき財務相は4月末の円買い介入について「総じて理解された」と述べ、「断固たる措置を取るときは取る」と市場をけん制しました。本来であれば、主要国から容認を得た介入の余地と、植田和男日銀総裁が会見で「速いスピードで上昇している」と認めた長期金利2.8%、すなわち29年半ぶり水準の利上げ観測が重なれば、円は買われる構図のはずです。ところが市場の反応は逆方向に進みました。木原稔官房長官が同日、「金融政策の具体的手法は日銀に委ねられるべきだ」と述べ、政治からの利上げ催促はないと示したにもかかわらず、円安と金利上昇と株安が同時進行するという、いわゆるトリプル安に近い構図が現れています。なぜ、利上げを織り込む通貨が買われないのか。ここに本日のセッションの核心が隠れています。
利上げ観測でも円が買われない、その仕組みの内側
通常、金利が上昇する通貨は買われます。ところが本日の東京市場では、新発10年物国債利回りが18日の取引で一時2.800%まで上昇し29年半ぶりの水準に達した直後にもかかわらず、円は158円台に押し戻されました。理由は名目金利の差ではなく実質金利と資金フローにあります。中東情勢の悪化を背景に原油は高値圏に張り付き、植田総裁自身が「川上から川中にかけて価格転嫁がやや早めだ」と述べる通り、国内のインフレ期待は名目金利の上昇を上回るペースで進んでいます。つまり日本の実質金利は上昇しておらず、為替市場は「日銀が動いてもインフレに追いつかない」という見立てを織り込み始めています。さらに重要なのは政治の動きです。高市早苗首相は本日の党首討論で補正予算案の編成について「指示が遅れたとは思っていない」と述べ、電気・ガス補助の再開やガソリン補助の継続を検討すると表明しました。前提条件として、ここで一つ違う筋を入れます。価格抑制策は短期の物価指数を押し下げますが、財政膨張と国債発行余地の縮小を意味し、長期金利には上方圧力として戻ってきます。片山氏が「主要国はエネルギー価格を抑える対策を行っている」と説明したことは、G7全体で財政による物価抑制が常態化しつつあることを示しています。介入の容認は、円を直接買い支えるための承認ではありません。ベッセント米財務長官が「過度な為替変動は望ましくない」と述べたのは、ボラティリティ管理についての合意であって、158円という水準そのものへの介入を約束したものではないという読みが、為替市場のキャリートレード勢に広がっています。ここで論理が崩れる条件があります。日銀が6月会合で利上げを実施し、同時に高市政権が補正の規模を絞る、この二つが揃った時に初めて、円買いの実需は名目金利上昇に追随します。それまでは、本日のように、金利が上がっても円が売られるという反転した相関が続く余地があります。
158円が試す次の関門、その先で何が崩れるか
論点を本日の核心に絞り直します。投資家が翌日以降に見るべき検証指標は、米長期金利でも日経平均でもなく、円の158円台後半が159円を再び抜けるかどうかです。1998年のアジア通貨危機局面では、日米金利差が縮小に向かう中でも円は147円台まで売られ、最終的な反転は協調介入と日本の金融システム不安の同時表面化を必要としました。2024年春の介入直後も、円は数週間で介入前水準に戻っています。市場が見ているのは、介入の有無ではなく、介入と金融政策と財政政策が同じ方向を向けるかどうかです。継続シナリオの条件は二つあります。原油が現在の高値圏で張り付き、補正予算の規模が10兆円超に膨らみ、日銀が6月会合で動かない、この組み合わせが揃えば、円は160円を試す圧力を維持します。逆に反転シナリオの条件も具体的です。日銀が6月17日18日会合で0.25%の追加利上げに踏み切り、同時に米国側でウオルシュ新FRB議長下の利上げ議論が後退する、この二つが重なれば、158円は当面のピークに変わります。米半導体大手の決算発表が日本時間21日朝に控えており、リスクオフが続けばドル買いが優勢となり円の重しは外れません。本日、東証続落の見出しの裏で進んだのは、金利上昇でも買われない通貨という、過去四半世紀でほとんど見なかった現象です。次に問われるのは、158円が壁になるのか通過点になるのか、その判定材料がG7声明でも介入容認でもなく、日銀の6月会合と補正の規模に絞り込まれているという事実です。介入が「理解された」という言葉が市場に意味を持つのは、その二つが揃った時に限られます。
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