半導体メモリ供給危機|日本電子部品株への波及は
DRAMショックの震源
AIサーバへの需要爆発が、半導体メモリ市場に構造的な供給不足をもたらしています。DRAMの価格が急騰する中、世界の投資マネーはメモリセクターに流入し続けており、DRAMをテーマとするETFは2026年に入ってから約107%の上昇を記録しました。しかしこの数字が示すのは単なる価格上昇ではなく、AIシステム設計そのものが変わり始めているという構造変化です。大規模モデルへのメモリ供給が追いつかない中、エッジAIや特化型の小規模モデルへと設計の重心が移りつつあります。つまり、メモリ不足が需要を抑制するのではなく、需要の形を変えているわけです。その変化が最初に数字として現れたのは、日本の電子部品メーカーの決算でした。太陽誘電は2026年3月期に営業利益が前期比91.2%増となり、AIサーバ向けコンデンサーと車載向けの双方が寄与したと説明しました。ミネベアミツミも通期で売上高・営業利益ともに過去最高を達成し、14期連続増収という記録を打ち立てています。これらの企業が示しているのは、AIサーバ需要がメモリだけでなく、受動部品・精密部品の全体に波及しているという事実です。だが、ここで一つ問いが残ります。メモリETFが100%超の上昇を記録する中で、なぜ東京市場の半導体関連株は5月12日に激しく乱高下し、日経平均の上値を抑えたのでしょうか。
日本株の乱気流
その答えは、ソニーの決算の中にあります。ソニーグループは2025年度に映画の記録的ヒットで増収を達成しましたが、最終利益は減少しました。ホンダとの合弁によるEV事業中止に伴う損失計上が響いたためです。しかし市場が真に注目したのはEVではなく、半導体部門の先行きでした。ソニーセミコンダクターは2026年度について減収見通しを示しており、メモリ市況の不透明感を主因に挙げています。グローバルではメモリETFが急騰しているにもかかわらず、ソニーの画像センサー事業はその恩恵を直接受けにくい構造にあります。この非対称性が、投資家のポジション判断を難しくしているわけです。そこへもう一つの変数が加わりました。ソニーセミコンダクターとTSMCが次世代画像センサーの開発・製造に向けた合弁会社設立を検討していることが明らかになったのです。TSMCとの提携はソニーにとって、メモリ不足という外部制約を迂回し、先端プロセスを自社センサーに適用できる経路を開くものです。しかし合弁の具体的な条件や投資規模はまだ確定していません。その不確実性が、好材料として素直に織り込まれることを妨げており、5月12日の半導体株の乱高下につながっています。利益確定売りと押し目買いが交錯する中、日経平均は一時800円超の上昇から急落し、最終的には324円高で引けました。
パワー半導体の再編圧力
ソニーの構造問題とは別の軸で、もう一つの資本移動が進んでいます。ロームが2025年度に過去最大の1584億円赤字を計上したのは、SiCパワー半導体の生産設備に対して1936億円の減損損失を計上したためです。東克己社長は「膿みは出し切った」と述べ、上向きの軌道に戻ると強調しましたが、この言葉が意味するのは過去の過剰投資からの離脱であり、前向きな成長加速ではありません。パワー半導体の再編という文脈では、ロームは東芝デバイスアンドストレージおよび三菱電機との事業統合協議を進めていますが、社長は「想定より時間がかかっている」と認めました。3社統合が実現すれば日本のパワー半導体産業に大きなスケールをもたらしますが、その実現時期は依然として不透明です。一方、デンソーとのアナログ分野での提携は進展しており、ロームは「パワーとアナログの両軸強化」によるソリューション提供力の向上を目指すとしています。問題は、この戦略転換のコストが既に計上され、市場が次に何を評価するかという点です。ロームの赤字一巡とTSMC合弁への期待がソニーの株価を支える一方で、メモリ不足が続く限り、太陽誘電やミネベアミツミのような受動部品メーカーへの資本流入は続くとみられます。確認すべき閾値は二つあります。一つはソニーとTSMCの合弁条件の公式発表で、出資比率と投資金額が明らかになった時点で市場の評価軸が変わります。もう一つはロームの次期四半期業績で、減損一巡後に営業利益が黒字転換するかどうかが問われます。ただし、もしDRAMの供給不足が予想より早く解消され、AIサーバ向け需要の伸びが鈍化した場合、太陽誘電やミネベアミツミへの高評価は急速に剥落する可能性があります。それがこの局面でのリスクの非対称性です。
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