原油95ドル|協議継続が動かした10ドル
市場が読んだシナリオ
4月14日、WTI原油先物は1バレル95ドル台まで急落しました。わずか数時間前、日本時間の早朝時間外取引では105ドル台を付けていた水準です。10ドルの下落、率にして約9.5パーセント。1日の値幅としては、湾岸戦争やコロナ禍の需要崩壊を除けば、近年にはほとんど例がない規模です。
市場が動いた理由として報じられたのは、「米国とイランの交渉チームが今週、パキスタンに戻り再協議する可能性がある」という外電の一報でした。停戦合意ではありません。和平条件の妥結でもありません。「再び会うかもしれない」という複数の関係者の話です。東証グロース指数は大幅反発し、日経平均株価は1374円62銭高の57877円39銭で引けました。ドル円は停戦協議進展への期待感から158円95銭まで下落する場面もありましたが、原油安による日本の交易条件悪化懸念から159円台で下げ渋りました。投資家の多くは、今日の原油急落を「和平前夜」のシグナルとして受け取りました。
価格が織り込んだものと、実際に起きたこと
問題は、「再協議の可能性」が本当にそれほどの重さを持つシグナルなのかという点です。先週末、パキスタンのイスラマバードで行われた米イラン協議は物別れに終わりました。停戦交渉が決裂したことを受け、トランプ大統領は米海軍によるホルムズ海峡への船舶出入りの封鎖措置を表明しています。これが原油を100ドル超に押し上げた直接の材料です。今週の再協議報道は、その正反対の方向に価格を動かしましたが、実態は「交渉チームが戻るかもしれない」という段階です。合意内容も、ウラン濃縮停止の条件提示も、停戦の枠組みも、まだ何も確定していません。
外為どっとコムが伝えた外為注文情報によれば、ドル円は原油高一服とともにドル安圧力を受けましたが、「イラン戦争前と比較すれば原油価格は依然として高い水準にある」との見方から下げ渋っています。つまり市場の内部では、原油95ドルでも「安値」とは見ていない参加者が一定数存在します。ところが表面上の価格だけを見ると、あたかも中東リスクが大幅に後退したかのような印象を与えます。原油が10ドル動けば、エネルギー株、航空株、化学株、そしてインフレ見通しまで連鎖的に動きます。香港ハンセン指数が0.82パーセント反発し、非鉄や半導体セクターに買いが入ったのも、この原油急落が引き金でした。市場が「和平折り込み」で動いた1日です。しかし折り込んだ内容は、まだ起きていません。
95ドルが正しい価格かどうかの見極め方
今後の焦点は、この原油水準が「先取り」で終わるか、「先見」として正しかったと証明されるかです。
証明されるには条件があります。今週中に米イラン双方の代表がパキスタンに戻り、協議が実際に再開され、少なくとも停戦の暫定枠組みが示される必要があります。そこまで進めば、WTI90ドル割れという次の節目も視野に入り、今日の9パーセント下落は「正しい先読み」だったことになります。日経平均も、この流れに乗った輸入コスト低下の恩恵を評価し、さらなる上値を試す展開が想定されます。
一方、今週中に再協議の動きが確認されなければ、原油は105ドル方向に押し戻される可能性があります。そうなれば今日の下落は誤ったシグナルを追った値動きだったことになり、円安再加速と輸入インフレの再燃を日本市場は再び意識しなければなりません。日銀が為替市況として公表した本日午後5時時点のドル円は159円06銭から08銭。ユーロ円は187円36銭から40銭でした。円が本格的に戻るには、原油が90ドル台に定着する必要があります。
確認すべき数字は一つです。今週中に米イランの交渉チームが実際にパキスタンへ戻るかどうか。それが確認されれば原油95ドルは正当化されます。確認されなければ、今日の市場は「再び会うかもしれない」というたった一報に10ドルを動かしたことになります。その値動きが正しかったかどうかの答えは、今週末までに出ます。