日本国債29年ぶり高金利|財政拡張で「トリプル安」加速か

· Nikkei

金利急騰と株安の構造

米国株が前日最高値を更新した翌朝、日経平均は一時500円超の上昇で取引を開始しました。ところが大引けでは1244円安に転落し、半導体関連銘柄が軒並み売り込まれました。外部環境は好転していたのに、なぜ国内株だけが崩れたのか。その答えは株式市場ではなく、債券市場にありました。

15日の東京債券市場で、長期金利の指標となる10年国債利回りが一時2.730%まで上昇しました。1997年5月以来、29年ぶりの水準です。金利がこの水準まで上がると、高いバリュエーションで持たれていた半導体株の割高感が一気に意識されます。アドバンテスト(6857)は1銘柄だけで日経平均を約307円押し下げ、東京エレクトロン(8035)、フジクラ(5803)、イビデン(4062)、キオクシアHD(285A)と続きました。外国人投資家を中心とした先物売りが後場に加速し、日経平均の下げ幅は一時1700円を超えました。

ただ、金利上昇自体は前週から続いていた流れです。それが15日に加速した理由は別にあります。市場が最も警戒したのは、政府が2026年度補正予算案の編成を検討しているとの報道でした。電気・ガス料金への補助などを盛り込んだ補正予算は、財政支出の拡大を意味します。国内外の機関投資家が一斉に国債を売り、金利が跳ね上がりました。株・国債・円が同時に売られる「日本売り」のトリプル安パターンが、この日の市場に現れていたのです。

財政懸念が隠す本質

補正予算報道が国債売りを加速させたことは事実です。しかしこの日の金利上昇には、財政懸念とは別のエンジンが動いていました。それが午前中に発表された4月の国内企業物価指数です。前年比4.9%の上昇は市場予想の3.0%を大幅に超え、2023年5月以来の高水準でした。石油・石炭は前月比11.8%、化学品は前月比6.1%という急騰で、イラン情勢による原油高騰がコスト全体に波及していることを示しています。

この数字が意味するのは、日銀が利上げを躊躇できない環境が整いつつあるということです。日銀の増委員は前日14日に「景気下振れの兆しがなければ早期利上げが望ましい」と発言しており、ハト派内でも利上げ容認の機運が高まっています。市場では6月の利上げ観測が急速に強まり、国内機関投資家と外国人投資家の双方が国債の保有コストを再評価し始めました。資産運用会社の一部は「長期金利は年内に3%まで上昇する可能性がある」という見方を示しています。

問題は、財政拡張と物価上昇という二つの圧力が同時にかかっている点です。片方だけなら吸収できる市場も、二重の金利上昇要因が重なると、債券から株へのマネー移動が加速します。ただしこの移動が安定的なリバランスならば、株式市場には底支えになります。15日も業種別では石油・石炭製品、保険業、輸送用機器が上昇しており、金利上昇の恩恵を受けるセクターへの資金シフトが起きていました。すべての株が売られたのではなく、バリュエーション依存度の高い半導体株が特に狙われた形です。

年内3%に向かう条件

長期金利2.73%はひとつの到達点ではなく、次の問いを突きつけています。「補正予算が正式に編成され、物価上昇が続くならば、3%はいつ到達するのか」。これが今後の株式市場と債券市場の最大の変数です。

現時点でのシナリオを整理します。金利上昇が続く方向としては、まず政府が補正予算編成を正式決定した場合、財政悪化懸念が一段と高まり、外国人投資家による日本国債の売りが加速します。企業物価上昇が消費者物価に波及すれば、日銀の6月利上げがほぼ確定し、短期金利の引き上げが長期金利をさらに押し上げます。この経路が実現すれば、アドバンテストやキオクシアHDなど高PER銘柄への売り圧力は継続します。ホンダ(7267)のように上場来初の赤字転落を経験した自動車セクターも、コスト上昇局面では回復が遅れる可能性があります。

一方、金利上昇が一服する条件も存在します。片山財務相は15日、「補正予算がないと何もできない状況ではない」と述べており、財政出動の規模と時期は流動的です。ホルムズ海峡情勢が改善し原油価格が落ち着けば、企業物価の上昇圧力が弱まり、日銀の利上げ判断にも余地が生まれます。この場合、金利上昇を嫌気して売られた半導体関連の押し目買いが入り、日経平均は6万1000円台を維持しながら反発する余地があります。

傾きとしては、金利上昇継続のリスクをやや重く見ています。補正予算の規模と物価データの推移が今後の分岐点です。検証するべき数字は二つあります。次回の国債入札での応札倍率が2倍を下回るか、そして5月末に発表される消費者物価指数が前年比3%を超えるか。この二点が想定より悪化すれば、3%という年内目標を市場が先取りして動き始めます。補正予算が正式編成されながら物価が落ち着くという、最も都合のよい組み合わせは、現在の情報だけでは想定しにくい状況です。

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