DIC|最高益でも下期13.6%減益
上方修正の中身
DICは8月10日、2026年1月から6月までの決算と通期予想の修正を発表しました。経常利益の通期予想は480億円から730億円へ、52.1%上方修正です。9年ぶりの過去最高益という見出しだけなら、成長が一気に加速したように見えます。
上期の経常利益は523億円で、前年同期の2.6倍でした。従来予想の255億円も上回っており、会社計画を半期だけで大きく超えたことが今回の出発点です。決算を受けて株価が後場S高カイ気配となったのも、この上振れの大きさが理由です。
ただし、上期の実績が強いことと、通期の利益が同じ速さで伸びることは別です。最高益になるかという問いは、今回の修正でほぼ答えが出ました。ここからDICを見る問いは、その利益が下期にも残るかへ移ります。
AI需要の実像
利益を押し上げた中心は、デジタル分野の高付加価値製品でした。エポキシ樹脂や工業用テープ、UV硬化型樹脂が好調で、カラーフィルター用顔料も前年同期を上回りました。中でも会社は、AI半導体需要による樹脂販売の上振れを説明しています。
半導体の絶縁材や封止材に使う樹脂が、単なる印刷需要とは違う伸びを見せたということです。したがって今回の増益には、AIインフラの拡大に連動する構造的な需要が含まれます。では、そのすべてを長期需要と読んでよいのでしょうか。
DICは、顧客が中東情勢の長期化を見越して在庫を積み増した動きも説明しています。これは需要の消失を示す材料ではありませんが、注文の一部が前倒しされた可能性を残します。さらに原料高には価格転嫁を速やかに進め、コスト管理も徹底したため、需要だけでなく対応力も利益を押し上げました。
上期の強さと下期
数字をもう一段分解すると、上期の売上高は5929億8300万円、営業利益は518億5000万円でした。営業利益は前年同期比92.2%増で、中間期として過去最高益を更新しています。表面的な利益の増加だけでなく、売上の拡大と利益率の改善が同時に起きています。
営業利益の通期予想に対する進捗率は66.5%で、過去6年平均の58.3%を上回りました。上期だけを見れば、会社計画を保守的に置いていたとも読めます。価格転嫁とコスト管理が続くなら、利益の土台が強くなったという解釈にも根拠があります。
しかし、上期の進捗が高いからといって、下期の不確実性が消えるわけではありません。顧客の在庫積み増しが反動を生むのか、AI向け需要が継続するのかを分けて見る必要があります。最高益という同じ数字の中に、持続的な成長と一時的な前倒しが混在している可能性があります。
最高益をどう検証するか
その境目を数字にしたのが、下期の試算です。上期実績と通期計画から計算すると、7月から12月までの経常利益は206億円で、前年同期比13.6%減益になります。これは会社が出した通期計画から機械的に導ける数字であり、見落とせない下期の前提です。
この下期減益は、通期の上方修正と矛盾する数字ではありません。上期の上振れが通期全体を押し上げる一方、下期は前年の水準に届かないという計画だからです。つまり今回の修正は、年間の利益水準を引き上げた一方で、成長の速度までは保証していません。
還元面では、年間配当を140円から150円へ増額し、最大100億円の自社株買いも発表しました。前期の配当200円には特別配当80円が含まれるため、今回の150円という数字だけで還元姿勢を単純比較することはできません。利益の上振れを株主に返す姿勢は確認できますが、それ自体が下期の需要を保証するわけではありません。