東エレク上場来高値|商社決算と介入の波紋

· Nikkei

半導体が動かした市場

東京エレクトロンが上場来高値を更新した日、日経平均は5連休の前日という重しがありながら228円高で引けました。通常、大型連休を前にした売りが優勢になる局面で、なぜ市場は上昇できたのでしょうか。

答えは東京エレクトロンの決算にあります。同社は4〜9月期の連結純利益が前年同期比36%増の3280億円になるとの見通しを発表しました。売上高は33%増、営業利益は42%増という水準で、市場予想を大幅に上回りました。背景にあるのは、韓国の大手メモリーメーカーや台湾の受託製造大手による積極的な設備投資の拡大です。HBM向けの需要が急拡大し、半導体製造装置への発注が一段と加速しているのです。

注目すべきは、同社が27年3月期の通期見通しを非開示としたことです。これは通常ならば不安材料として受け取られますが、市場の反応は逆でした。変動要因が多すぎて開示できないほど需要の伸びが早い、という解釈が広がり、株価はむしろ上昇を加速させました。東京エレクトロンの1銘柄だけで日経平均を330円以上押し上げた計算になります。

一方でSCREEN、東京エレクトロンデバイスなど関連銘柄にも買いが波及し、半導体セクター全体が底上げされました。村田製作所には欧州系証券と国内大手証券が相次いで目標株価を引き上げ、データセンター向けMLCCの需要増を評価する動きも続いています。AI投資が実需に転換しつつあることを、製造装置メーカーの受注が先行して示しているのです。

商社の大転換

半導体株が市場を牽引したその同じ日、全く異なる論理で急騰した銘柄がありました。住友商事です。株価は一時16%高と急騰し、一時ストップ高まで買われました。

きっかけはマダガスカルのニッケル鉱山事業「アンバトビー」からの完全撤退発表でした。保有する54.17%の持ち分を2026年9月末までに英国企業へ売却し、営業外損失として約850億円を計上します。単体で見れば巨額の損失です。にもかかわらず株価が急騰したのは、この撤退に同時発表されたものがあったからです。1株を4株に分割し、最大800億円の自社株買いを実施するという株主還元策です。

市場が評価したのは数字ではなく、意思決定の質でした。長年の不採算事業を損失ごと切り離し、その資本をそのまま株主に返す。これは「資本効率への本気度」を示すシグナルとして受け取られました。

この流れは住友商事だけにとどまりません。三菱商事は27年3月期の純利益が前期比37%増の1兆1000億円になる見通しを発表し、LNG・銅・原料炭の市況回復が一斉に寄与する構図です。伊藤忠商事は機械・食料・繊維など非資源分野がけん引し、3年連続最高益の見通しを示しました。三井物産は米国ガス事業の好調を背景に10%増益を見込み、2029年3月期までの中期計画では純利益1兆1000億円という目標を掲げています。

商社セクター全体に共通するのは、不採算資産を整理しながら株主還元を強化するという構造転換です。住友商事の株式分割はその象徴として市場に映りました。丸紅も純利益7%増の最高益見通しと自社株買い450億円追加を発表しており、商社の決算ラッシュが一つの相場テーマとして機能した一日でした。

介入の後に残るもの

東エレクの高値更新と商社株の急騰が続く一方で、市場の片隅には別の緊張が走っていました。為替です。

4月30日の夕刻、ドル円は一時1ドル=160円台後半まで円安が進みました。イラン情勢を受けた原油価格の高騰が円売り圧力を高め、片山財務相が「断固たる措置に近づいている」と警告を発したにもかかわらず、円安は加速したのです。そして午後7時過ぎ、一気に円を買う動きが強まりました。政府・日銀が1年9か月ぶりとなる為替介入を実施し、ドル円は一時155円台まで急騰しました。

5月1日の東京市場ではドル円は157円台前半で推移し、介入後の落ち着きが表面上は見られました。しかし市場の警戒は解けていません。財務省の三村財務官は「コメントしない」と口を閉ざし、政府は介入の規模や今後の方針を明かしていないからです。連休谷間という薄商いの中で、追加介入への警戒だけが残っています。

ここで重要なのは東京CPI(消費者物価)の数字です。4月の東京CPIは日銀の目標である2%を3か月連続で下回り、前年同月比1.5%に留まりました。エネルギー価格の上昇が限定的にとどまっているためですが、裏を返せば、円安がさらに進んで輸入物価が上がれば、日銀が利上げ判断を早める根拠となり得ます。長期金利はすでに2.5%台に張り付いており、次の利上げ観測が常にくすぶり続けています。

証拠の重みを総合すると、目先の相場は決算主導の物色が続く公算が高いです。ただしこの判断は円相場が157〜160円のレンジに留まることが前提です。再び160円台後半まで円安が加速した場合、追加の為替介入とそれに伴う市場の混乱が、決算相場の流れを断ち切る可能性があります。逆に円安が一服し、来週発表されるトヨタ・任天堂・JTの決算が市場予想を上回れば、日経平均は6万円台の回復を試す展開になるでしょう。確認すべきは、まず月曜日のドル円の水準、そして来週の大型決算の中身です。介入があった事実よりも、次に160円を超えたとき政府が動くかどうか、それが今後の円相場を決定する分岐点になります。

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