米イラン再攻撃|日経1100円安の裂け目
停戦期待の崩壊
28日の東京市場で日経平均が一時6万3800円台まで下落し、下げ幅は1100円を超えました。表面上の説明は「中東不安の再燃」ですが、その一言では説明がつかない点があります。先週25日には停戦交渉進展の期待で日経平均は1800円上昇し、史上初めて6万5000円を突破したばかりでした。その上昇の全額近くが、わずか3日間で取り戻されたことになります。
問題は価格の逆行ではなく、その速度と売り主体にあります。外資系証券トレーダーの言葉を借りれば、「直近の株高は交渉進展への期待だけで積み上げられたものだったため、応酬を伝えるニュースは利益確定売りの口実になりやすかった」とのことです。つまり日経平均6万5000円台に乗せた買い圧力は、外国人投資家と機関投資家が「停戦シナリオ」を先取りして積んだポジションに大きく依存していました。
28日朝、米軍がイランの軍事施設に新たな空爆を実施したとの報告が伝わった直後、イラン革命防衛隊はクウェートの米空軍基地を攻撃対象とした声明を出しました。クウェート軍が防空システムを稼働させたとの報も入り、「停戦間近」というポジションの前提が一斉に崩れたのです。この前提崩壊が外国人の売りを引き出し、ソフトバンクグループ、フジクラ、古河電工といったここ数週間の上昇をけん引した銘柄が下げ幅を拡大しました。ただし価格が止まった水準は6万4693円で、下げ幅は最終的に306円に圧縮されています。1100円の急落を耐えた底値圏の買いが誰だったのかは、この日の売買代金7兆2916億円の内訳が開示されるまで確認できません。
ホルムズ海峡の構造矛盾
1100円の急落が最終的に306円安で終わったことは、停戦期待が完全には剥落していないことを示しています。しかしその楽観論が成り立つためには、ホルムズ海峡を巡る根本的な対立を市場が見ていないことが前提になります。
トランプ大統領は27日の閣議で「誰もホルムズ海峡を支配することはできない」と明言し、国際水域として全船舶に開放されるべきだと強調しました。一方でイラン国営メディアが報じた停戦草案には、イランとオマーンが共同でホルムズ海峡の通航を監督する枠組みが含まれており、ホワイトハウスはこれを「完全な捏造」と否定しています。世界の海上原油輸送量の約20%が通過するこの海峡において、双方の主張は完全に相反したままです。
FRB副議長のジェファーソン氏は28日に日銀で開催された会合でこう述べました。「エネルギー高は日本のようなエネルギー純輸入国にとって特に困難だ」と。FRBが6月FOMCでの据え置きを示唆する中で、この発言は日本市場への直接的な圧力として機能しています。原油価格が1バレル90ドル台を維持する限り、エネルギー輸入コストは日本企業の収益を侵食し続けます。イラン革命防衛隊は「敵対国」の船舶のホルムズ通過を禁じると警告しており、23隻の通過を報告しているものの、AIS発信機は全船舶が切っているため実態は確認できません。ホルムズを巡る管理権の争いが解決しない限り、停戦後であっても原油供給の正常化は自動的には起きません。外国人資本がこの構造矛盾に気づき始めた瞬間が、今日の急落の正体です。
ナフサ断絶の産業連鎖
原油価格が戦争前水準に戻らないとすれば、日本の国内産業が最初に割れる点はどこかが問題になります。それが今日の半導体・AI関連株だけでなく、建設・化学・自動車部品にまで連鎖するのかどうかです。
2月28日の米・イスラエルによるイラン攻撃以来、ホルムズ封鎖によってナフサの海上輸送が途絶しています。ナフサは断熱材、防水シート、気密シートなどの原材料であり、プラスチック・化学製品の基幹素材です。宮城県の建設業者は「断熱材が40%値上げと同時に受注停止」を通告され、代替素材の調達に奔走していると報告しています。業界全体では「不安が不安を呼び」発注量が前年比200%に達しているとされ、実際の不足以上のパニック買いが供給をさらに逼迫させています。ある分析では年間倒産件数が1万件を超える可能性も指摘されています。
この産業連鎖が株式市場に反映されるタイミングが今日ではない点が重要です。今日の下落は停戦ポジションの解消という短期資金の動きでした。ナフサ断絶が建設・化学・自動車部品の収益に波及するのは、4〜6月期の決算数字として開示される7月以降です。したがって現時点でナフサ関連の中小企業株への資本移動は観測されておらず、価格・出来高シグナルからの推察に留まります。この日のTOPIXは16ポイント安の3902で、日経平均の相対的な下げ幅より小さく、大型輸出株中心の下落だったことが確認されています。日経平均が再び6万5000円に接近する条件は、ホルムズ海峡の管理権問題について米イランが共に受け入れ可能な枠組みを示すことです。それが数時間後に来るのか数週間後なのかは、ルビオ国務長官が「今後数時間から数日の動きを見極める」と述べた以上の情報を、市場はまだ持っていません。
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