豪州A100億|三菱重工だけではない受益者
戦後初の輸出契約と、機械セクター首位の理由
本日の東京株式市場で三菱重工業が一時5.07%上昇し、4593円を付けました。きっかけは、日本が戦後初めて海外に作戦艦艇を輸出する契約の締結です。オーストラリアと日本は18日、もがみ型護衛艦11隻のうち最初の3隻を三菱重工が日本で建造し、残る8隻はオーストラリア西部の造船所で建造するという総額100億豪ドル、約65億ドルの契約に署名しました。首艦の引き渡しは2029年の予定です。
市場の第一反応は単純でした。三菱重工の株を買えばいい、と。ところが本日の東証業種別ランキングで上昇率首位となったのは機械セクター全体、2.04%高でした。空運業が1.88%、情報・通信業が1.54%と続きます。一方で、鉱業は下落率首位、海運業や石油・石炭製品も売られました。
同じ日経平均が348円99銭の反発で終値5万8824円89銭を付けた中で、この業種間の差は何を意味するのでしょうか。三菱重工の株価はすでに過去12カ月で約75%上昇しています。本日の5%高は、ある意味で「確認の買い」に過ぎません。
本当の受益者はどこにいるか
もがみ型護衛艦1隻の建造コストは約700億円とされています。11隻分の総額は7700億円規模になります。三菱重工は設計と最初の3隻の建造を担いますが、艦艇はモジュール生産です。エンジン系統はIHI、射撃制御はNEC、各種センサー類は東芝、三菱電機などサプライヤーが連なります。IHIが本日+1.1%、川崎重工業も上昇した背景はここにあります。
さらに構造的に重要なのは、今回の契約が個別案件ではないという点です。日本政府は昨年3月に防衛装備移転三原則の運用指針を改定し、「次期戦闘機」のような共同開発装備の第三国への輸出を解禁しました。今回のもがみ型契約はこの新ルールのもとで締結された最初の大型案件であり、英国、カナダ、インドなどが次の候補として名前が挙がっています。
東証グロース市場に目を向けると、宇宙・防衛関連銘柄のQDレーザとセイワHDが本日急騰し、アストロスケールが大幅高となりました。グロース250指数は年初来高値の783ポイントを更新しています。プライム市場の国内年金によるリバランス売りで流出した資金が、防衛・宇宙関連のグロース株に向かったという観測が出ています。三菱重工の株価だけを見ていると、この連鎖の広がりは見えません。
この流れはいつまで続くか
今回の受益構造が持続するかどうかは、二つの条件にかかっています。一つは日本の防衛輸出ルールがさらに拡張されるかどうか。もう一つは、オーストラリア以外の受注が実際に具体化するかどうかです。
証拠の重みは、構造的な持続を示す側に傾いています。日本の防衛費はGDP比2%への引き上げが閣議決定済みであり、2027年度の達成に向けた予算増額が続いています。三菱重工やIHIなどの大手重機メーカーが過去1年で急騰した背景はここにあります。輸出解禁はその次のステップであり、国内の防衛費増額と輸出案件の両輪が揃えば、サプライヤーの受注環境は構造的に変わります。
ただし、この読みが崩れるとすれば一つのシナリオがあります。来週火曜、日本銀行の金融政策決定会合が開かれます。市場では利上げ観測が燻っており、ネット証券からは「買いづらさがある」との声が出ています。長期金利が上昇すれば、将来の設備投資や受注採算を折り込んだ防衛株のバリュエーションには逆風が働きます。
確認すべき数字は一つです。5万9000円台のボリンジャーバンド上限を日経平均が抜けるかどうかではなく、川崎重工業とIHIの株価が本日の水準を維持するかどうか。三菱重工だけが持ちこたえてサプライヤーが落ちるなら、それは一時的な話題株物色です。両者が揃って水準を切り上げるなら、受注サプライチェーン全体の再評価が進んでいると読めます。