長期金利2.8%の衝撃|キオクシア急騰でも株が売られる理由

· Nikkei

金利29年半ぶり高水準

キオクシア(285A)が営業利益29倍という驚異的な決算を発表した朝、日経平均は一時1000円超の急落を演じました。好材料と売りが同じ日に重なるとき、どちらが市場を支配するかは、その日の資金の重力で決まります。そして18日、重力は明らかに金利側にありました。

長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りが一時2.800%をつけ、1996年10月以来、約29年半ぶりの高水準を記録しました。前週末の米市場でCPIとPPIが相次いで市場予想を上回り、FRBの利上げ観測が再燃。その流れが東京市場に波及したところに、トランプ大統領がイラン攻撃再開をSNSで示唆し、原油先物が一段高となりました。インフレ圧力と財政悪化懸念が重なり、国内機関投資家を中心とした債券売りが加速した形です。

問題は金利上昇の震源地です。日本国債は原油高を経路とした輸入インフレと、政府の補正予算による財政悪化の二重の売り圧力にさらされています。運用会社の関係者は「5年債入札がさほど崩れなかったため午後に買い戻しが入った」と述べましたが、「財政悪化懸念は根強く、安定した状態からは程遠い」とも付け加えました。30年債利回りが4.100%、40年債が4.315%と超長期ゾーンでも過去最高圏に達していることは、この圧力が短期的なパニックではなく構造的な懸念に基づいていることを示しています。

日経平均は前日終値から一時1000円超下落し6万1000円を下回りました。外国人投資家が国内株式の先物でショートを積み増した一方、個人投資家の押し目買いが入るという典型的な需給構造でした。2.800%という水準そのものより、金利上昇のスピードと上限が見えないことが、機関投資家のリスク許容度を圧迫しているのです。

キオクシア孤独なストップ高

その売り圧力の中で、キオクシア(285A)だけが違う方向を向いていました。しかしその孤独なストップ高は、半導体セクター全体を引き上げるどころか、逆に市場の構造的な脆弱性を浮き彫りにしました。

キオクシアは前週末15日の決算発表で、前期最終利益が2倍増・2期連続最高益を達成し、今1Q(26年4〜6月)の営業利益が前年同期比29倍になるとの見通しを示しました。野村証券など複数の証券会社が目標株価を相次いで引き上げ、ストップ高でも上昇余地があるとの声が出るほどです。AI向けNANDフラッシュ需要の回復が、通期売上高2兆3376億円という過去最高を更新させた背景にあります。

しかし市場全体として見ると、このキオクシアの急騰は株価指数への波及が限られ、むしろショートを誘う結果になりました。個別好材料に対して資金が集中する一方、金利上昇で割引率が上がる局面では、PERが高い成長株全般への売り圧力が強まります。キオクシア株への買いは、半導体セクターへの強気資金の流入というより、好決算発表後の個別イベント買いにとどまり、リクルートホールディングス(6098)やGMOペイメントゲートウェイ(3769)など好決算銘柄に資金が散らばる形となりました。

ここに今日の市場の核心があります。キオクシアが示した半導体の収益回復は本物です。しかし、その収益力が長期金利2.8%という割引率の上昇に対抗できるかどうかは、今後のFRBの動向と日銀の対応次第です。金利が上限を探る過程で、好決算株でさえ売り圧力にさらされるという逆説的な状況が続いています。

みずほ×楽天銀の賭け

長期金利の上昇が株式市場を押しつぶしている中で、ある取引が静かに進んでいました。みずほフィナンシャルグループ(8411)が楽天銀行(5838)への出資を検討していることが明らかになり、楽天銀株は午後に上げを拡大しました。出資比率は5〜10%が軸と伝わっています。

この動きを金利上昇の文脈から切り離して読むと、本質を見誤ります。5大銀グループの純利益が5.8兆円超えと過去最高を更新したのは、日銀の利上げが銀行の利ざや収益を押し上げたからです。利上げ局面において、大手銀行には余剰資本が積み上がっています。みずほがその資本をネット銀行への出資に向ける判断をしたのは、金利上昇によって既存の貸出収益が改善する一方、デジタル預金獲得という新たな戦場での遅れを埋める必要性が高まっているためです。楽天銀行は個人預金残高でネット銀行最大規模を誇り、みずほにとっては自前では容易に獲得できない顧客層へのアクセスを意味します。

逆説的なのは、同じ金利上昇がみずほ株には売り圧力として働いたことです。みずほFG株は特別売り気配上位に登場し、当初は売り優勢となりました。長期金利の急上昇は保有国債の含み損拡大を連想させ、投資家が銀行株の評価を見直す材料になりました。同じ金利上昇が銀行の収益を押し上げる一方で、バランスシートのリスクとして売り圧力を生む二面性が、この日の銀行セクターの複雑な値動きを説明しています。

今後のシナリオの分岐点は2.800%という水準が定着するかどうかです。金利がこの水準を超えて3%に向かうようであれば、国内機関投資家の国債保有コストが上昇し、株式への資金シフトは限られます。一方、日銀が財政懸念を背景とした金利上昇に何らかの対応を示せば、長期金利は2.5%台に落ち着き、好決算銘柄主導の上昇が再開する可能性があります。明日以降、キオクシアのストップ高が半導体セクター全体に波及するかどうかが、後者のシナリオの最初の検証ポイントとなります。長期金利が2.800%近辺で高止まりしたまま半導体株も買われるなら、市場は金利上昇を甘受しながら個別株で収益を取りに行く局面に入ったと判断できますが、それは今日の動きが示したものとは正反対の結論です。

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