長期金利2.8%29年半ぶり突破|日銀が上げられない理由は
29年半ぶりの水準が刻んだ日
18日の東京市場で、長期金利の指標となる新発10年物国債利回りが一時2.800%に達しました。1996年10月以来、約29年半ぶりの高水準です。日経平均株価は一時1000円超下落し、終値は前営業日比593円安の6万815円でした。問題は金利が上がったことではありません。なぜ日銀はこの水準を見ながら動けないのか、そこです。
中東情勢の混迷が発端でした。トランプ米大統領がSNSでイランへの攻撃再開を示唆し、原油先物価格が一段と上昇しました。ホルムズ海峡の封鎖懸念を背景に世界の石油在庫が減少を続け、東京市場では輸送用機器、繊維製品、卸売業が下落する一方、原油高の恩恵を受ける業種は限られた動きとなりました。前週末の米国市場でも主要物価指標が市場予想を上回り、FRBの年内利上げ確率が一時5割を超えました。この流れが国内債券市場に波及し、国内長期金利を押し上げたのです。
さらに政府が補正予算編成を検討していると伝わりました。高市首相が中東情勢を見据えた予算確保を指示したという報道で、財政悪化への懸念が債券売りに拍車をかけました。金利上昇メリット銘柄として三菱UFJフィナンシャルグループ(8306)が一時3.3%高になる局面もありましたが、相場全体の重しとなった長期金利上昇の圧力は、その上昇メリットを相殺しました。金利が上がっているのに、銀行株も最終的には売られて終わった。その矛盾の手前に、答えがあります。
日銀の財務が封じる選択肢
通常、長期金利が29年半ぶりの高水準に達すれば、中央銀行は引き締めを強化するか、少なくとも市場にそのシグナルを送ります。ところが日銀は現在、政策金利を上げれば上げるほど自らの財務が悪化する構造的な制約の中にいます。
日銀当座預金の残高は約500兆円に上ります。政策金利が現行の0.75%であれば年間3.75兆円の利払いが生じます。一方、日銀が受け取る利息は年間約2.4兆円にとどまります。差し引き1.35兆円の赤字です。政策金利を1.0%に引き上げれば、この赤字は2.6兆円に膨らみます。日銀が現在黒字を保てているのは、保有する株式ETFの分配金など約1.5兆円があるからです。しかし株価が下落すればその分配金も消える。長期金利を抑えようと利上げすれば株が下がり、株が下がれば日銀の収益基盤が崩れる、という連鎖です。
ここに今日の市場が見落としているものがあります。長期金利2.8%は「金利のある世界への正常化」として報道されています。確かに5大銀行グループの純利益が5.8兆円を超え、三菱UFJFGが初めて2兆円の節目を突破したのは利ざや改善の成果です。しかし、この利ざや改善がさらに進むためには日銀の追加利上げが必要であり、その追加利上げは日銀自身の財務悪化を意味します。銀行が利益を上げるほど、日銀は動けなくなる。この非対称性が、今日の2.8%突破の本当の重さです。
円相場はドル円が一時159円台を付けました。みんかぶFX/為替の分析では、159円台では為替介入の可能性が高まると見られています。ところが介入には外貨準備の取り崩しが伴い、財政出動との二重負担が生じます。日銀が利上げで円安を止めることができず、政府も介入余地が限られるなら、円安は構造的に継続する力学を持ちます。原油高が円安を促し、円安がさらなる物価高を招き、物価高が金利上昇圧力を生む。その循環の中で日銀だけが身動きを取れない。
金利上昇が止まる条件と加速する条件
今日の2.8%突破が1996年の水準と異なる点は何か。1996年当時、日本の財政債務残高はGDP比で現在より大幅に低く、日銀のバランスシートも膨張していませんでした。当時と同じ金利水準でも、今の日銀が受ける財務圧力は桁違いです。ドーマー条件(経済成長率g≒4%>長期金利r≒2.8%)を満たしているうちは財政持続可能との見方もあります。しかしそのスプレッドは急速に縮まっています。
長期金利上昇が一服する条件は二つです。一つは原油価格の下落です。ホルムズ海峡を巡る緊張が緩和し、原油先物が現水準から10%超下落すれば、インフレ期待の後退とともに債券売り圧力が弱まります。もう一つは米国のFRB利上げ観測の後退です。FedWatchが示す年内利上げ確率が現状の5割超から3割以下に低下すれば、米長期金利の上昇圧力が緩み、国内市場への波及も弱まります。
一方、加速する条件は財政です。高市首相が検討を指示した補正予算の規模が大きいほど、国債の増発観測が強まります。財政悪化が市場に織り込まれれば、長期金利は3%を視野に入れる可能性があります。そのとき日銀のETF分配金収入だけで財務を支えることはできなくなります。
翌日の検証ポイントは二つです。ドル円が159円台を維持するかどうか、そして日銀が何らかのコメントや臨時オペで金利上昇に反応するかどうかです。日銀が沈黙を続けるなら、市場は「3%まで抑制しない」と読み始めます。2.8%を突破した今日の動きが転換点だったと証明されるのは、日銀が動いたときではなく、動けないと市場が確信したときです。では、日銀が動く条件は何か。それが次の問いです。
- [47NEWS] 【速報】長期金利2.800%、29年ぶり高水準 - 47NEWS
- [時事ドットコム] 【速報】長期金利が2.8%に上昇し、29年ぶりの高水準を付けた - 時事ドットコム
- [時事通信ニュース] 長期金利、2.8%に上昇=29年ぶり高水準 - 時事通信ニュース
- [毎日新聞] NEWSFLASH:長期金利上昇、一時2.8 - 毎日新聞
- [朝日新聞] 長期金利、一時2.8% 29年半ぶりの高水準 日経平均は続落 - 朝日新聞
- [朝日新聞] 長期金利、一時2.8% 29年半ぶりの高水準 日経平均は続落 - 朝日新聞
- [時事通信ニュース] ◎〔金利・債券市況〕先物、急落=長期金利は一時2.800%(18日午前) - 時事通信ニュース
- [東洋経済オンライン] 「利上げ→日銀の赤字拡大」で打つ手なし? 止められない円安が招く物価高の絶望シナリオ - 東洋経済オンライン
- [産経ニュース] 5大銀グループの純利益5.8兆円超え 利上げで収益増 不安要素は中東情勢や最新AI - 産経ニュース
- [株探(かぶたん)] 「金利上昇メリット」が19位にランク、日米欧で利上げ観測強まる<注目テーマ> - 株探(かぶたん)
- [株探(かぶたん)] 【市況】 日経平均は続落、国内長期金利上昇横目に売り優勢の展開/ランチタイムコメント - 株探(かぶたん)
- [株探(かぶたん)] 【市況】 日経平均は続落、長期金利上昇が投資家心理の重しに/相場概況 - 株探(かぶたん)