長期金利29年ぶり2.545%|入札好調でも売られた債券市場の謎は

· Nikkei

日経平均3日ぶり反発、その陰で29年ぶりの数字が動いた

5月12日、東京市場は一見穏やかに見えました。日経平均株価は前日比324円69銭高の6万2742円で3営業日ぶりに反発し、AI・半導体関連が相場を牽引しました。イビデンが上場来高値を更新し、古河電工や住友電工といった非鉄金属も急騰。ソフトバンクグループが159円分押し上げるなど、アクティブな決算プレーが株式市場を彩りました。米財務長官スコット・ベッセント氏が訪日し、高市首相や片山財務相と会談。「日米の強固な経済パートナーシップをあらためて確認できた」というベッセント氏の発言が伝わると、円相場は一時157円70銭台まで円安が進みました。

ところがこの日、株式市場の明るさとは別の場所で、もう一つの数字が29年ぶりの水準へと達していました。長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りが2.545%に上昇し、1997年6月以来の高さを記録したのです。表向きの市場環境は良好でした。10年国債の入札は応札倍率が過去12カ月平均を上回り、テール縮小と「好調」と評価される内容でした。好調な入札は通常、債券への需要を意味します。需要が集まれば利回りは下がるはずです。それなのに、金利は上がりました。

入札好調なのに金利が上昇した、その矛盾の核心

需要があるのに金利が上昇する、この矛盾の背後には二重の力学が働いていました。一つは中東情勢です。トランプ大統領は11日、イランの停戦回答を「ゴミのような代物」と切り捨て、戦闘終結の見通しは遠のきました。WTI原油先物は再び100ドル台に乗せ、一時は101ドル76銭まで買われました。エネルギーコストの上昇は製造業から流通まで物価全体に波及するため、インフレ長期化への警戒が強まります。投資家にとって固定利回りの債券は、インフレが続く限り実質リターンが目減りする資産です。需要があっても、もっと利回りが高くなるという期待が上回れば、投資家は今すぐ買いに入らず様子見に転じます。

もう一つの力学が、この日の市場を決定的に動かしました。日銀の4月会合の「主な意見」が12日に公表され、政策委員から「次回以降の会合での利上げ判断は十分にあり得る」という踏み込んだ言葉が出てきたのです。9人の委員のうち3人が1.0%への利上げを求めて反対票を投じていたことも改めて明らかになりました。ベッセント長官自身も同日、植田総裁が日銀を成功へと導くと「全面的に信頼する」と述べ、日銀の独立的な利上げ判断を事実上支持するシグナルを市場に発信しました。入札の需要が意味するのは「今の金利でも買える人がいる」という水準であり、市場が織り込んでいるのは「さらに高い金利が来る」という予測です。好調な入札と金利上昇は、矛盾ではなく同じ予測を反映した二つの顔でした。

ただし、ここで確認しておきたいことがあります。長期金利が上昇し続けるためには、物価の上振れが「基調的」なものである必要があります。日銀が重視する一時的な変動要因を除いた基調的物価上昇率が、中東情勢の落ち着きによって下振れた場合、今日の金利上昇の前提は崩れます。2.545%という数字は現在の状況への評決ではなく、まだ答えのない問いかけです。

1997年との比較、そして2.545%の次に来るもの

1997年6月に長期金利が2.5%台にあったとき、日本経済は何が起きていたかを振り返ると、今の状況との対比が鮮明になります。当時は橋本政権下の財政再建路線が進行中で、消費税引き上げ後の景気の冷え込みが顕在化し始めていました。長期金利はその後急落し、デフレと低金利の時代が20年以上にわたって続きました。今回、同じ水準に戻ってきた背景は構造的に異なります。輸入物価の上昇が賃金交渉を通じて国内物価に転嫁されつつあり、日銀が昨年12月に0.75%まで引き上げた政策金利の軌道は止まっていません。四国銀行グループが過去最高益を達成したと発表したように、金融機関は金利上昇の恩恵を受ける立場にあります。

問題は、金利の上昇が日本株の水準をどこで試すかです。東証REIT指数はこの日9カ月ぶりの安値を更新し、金利に敏感な不動産投資信託から資金が逃げ始めました。日経平均の先物市場では7万5000円の「買う権利」への需要が急増しているとも伝えられており、株式市場は高金利よりも業績拡大シナリオを選択しています。しかし2.545%が定着し、さらに上昇が続いた場合、企業の借り入れコストが上がり、PERの圧縮圧力が働きます。金利上昇を株高と両立させるには、企業収益がそれを上回るペースで伸びることが条件です。

次の確認ポイントは13日の米消費者物価指数です。米CPIが強含めば、世界的な金利上昇期待が再燃し、日本の長期金利への上昇圧力は一段と強まります。逆に米CPIが予想を下回れば、原油高とインフレ連鎖の前提が緩み、2.545%は一時的なオーバーシュートとして評価される可能性があります。日銀が次回利上げに動くとすれば、その時点での長期金利は現在より高いのか低いのか、答えは米国の物価データが半分決めます。1997年の金利水準に戻ってきた市場が、今度はその先に進むのか退くのか、入札好調という需要の存在がかえってその問いを難しくしています。

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