AI半導体モメンタム|原油安でも主役交代なし

· Nikkei

日経、初の65000円台

25日の東京市場で日経平均が初めて6万5000円台に乗せたとき、市場が注目した数字は株価ではなく原油でした。米イランの和平協議進展を受けてWTI原油は90ドル台まで急落し、インフレ懸念の後退が米株先物を押し上げました。問題は、原油安の恩恵を最も受けるはずの景気敏感セクターではなく、エネルギーコストと無縁なはずのAI・半導体株が上昇を主導したという事実です。ソフトバンクグループ、東京エレクトロン、アドバンテストの3銘柄だけで日経平均の上昇幅1819円のうち700円超を担いました。この3社だけで上げ幅の4割近くを占めた計算です。プライム市場の売買代金上位10銘柄のうち9銘柄がAI・半導体関連だったという構造を見れば、これは個別銘柄の話ではありません。外国人投資家と国内機関投資家のモメンタム資金が、地政学リスクの後退という材料を受けてもAI株から出口を探した形跡がないことを、この売買代金分布が示しています。原油が下がればエネルギー株に資金が戻るという通常のセクターローテーションが今回機能しなかった理由こそが、この相場を読む上での核心です。

モメンタムが止まらない理由

原油安なのに資金がAIから動かなかったのは、モメンタム投資の構造的な粘着性によるものです。市場関係者が「買いが買いを呼ぶ」と表現するこの状態は、個別銘柄の割高・割安判断より勢いへの追随が優先される局面を意味します。ソフトバンクグループが投資する米オープンAIの近い将来の上場観測、キオクシアホールディングスの2026年4〜6月期純利益が前年同期の48倍に膨らむ見通しなど、AI関連株の成長ストーリーには好材料が絶えず供給されています。これらの材料は「高くても買わざるを得ない」という判断を機関投資家に促し続けており、原油の方向転換程度では価格感応度が変わらない構造になっています。ただし、TOPIXが戦前の最高値を上回った一方でプライム市場全体では半数以上の銘柄が下落していた事実は、この上昇が指数構成上位への集中であることを示しています。26日の東京市場で日経平均が前日比162円安と一転して反落した局面でも、AI株への押し目買いが機能し下げを抑えたことは、モメンタム資金の上昇方向への傾斜が依然として崩れていないことを価格行動として示しています。問題はこの粘着性がいつ剥がれるかではなく、粘着性を支えている別の力が加わっているかどうかです。

Mythosが変えるシステムリスク

AnthropicのClaude Mythos Previewが1000以上のオープンソースプロジェクトから2万3019件の脆弱性を検出し、そのうち6202件を高リスクまたは重大と評価したという5月22日の報告書は、AI投資の成長ストーリーに新たな次元を加えました。脆弱性の発見から悪用までの時間が数カ月から数分へと短縮されたという事実は、金融庁と日本銀行が同日に金融機関へ9項目の対応を要請するという異例の行動を引き出しました。金融庁はパッチ適用体制の強化、ベンダーとの契約内容の即時確認、さらには経営判断によるシステムの能動的停止まで選択肢に含めるよう求めています。これは日本の主要金融機関がサイバーセキュリティ対応コストを急速に拡大せざるを得ない局面であることを示しており、ITセキュリティ・クラウドインフラ領域への資本配分が変わる構造的なトリガーです。AI株への資金集中という文脈では、この動きはAIが引き起こすリスクと、AIで防御するセキュリティ需要を同時に拡大するという二重の力として作用します。今後確認すべき変数は、金融庁が1カ月以内の対応を求めたシステム点検が実際にどの規模の追加投資を引き出すかです。その額が明らかになる時点で、AI関連の資本フローがソフトウェアセキュリティ領域へと傾斜を変えるかどうか、株価への反映を確認することになります。モメンタム資金がAI株全体に向かい続けるかどうかは、Mythos型の脆弱性ショックが市場の想定より早く金融インフラを揺らした後も、AI成長ストーリーへの信頼が維持されるかどうかにかかっています。

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