ASML13%増収|日本半導体の逆走
好決算が引き金になった売り
4月15日、オランダの半導体製造装置大手ASMLが1〜3月期の決算を発表しました。売上高は前年同期比13.2%増の87億6700万ユーロ、純利益は17.1%増の27億5700万ユーロ。2桁の増収増益です。半導体需要の拡大を映した、まず文句のつけようのない数字でした。
ところが東京市場では、この発表の直後から半導体関連株に売りが広がりました。キオクシアHDは1銘柄だけで日経平均を約61円押し下げ、フジクラが50円、イビデンが35円を削りました。日経平均の下落寄与ランキング上位3銘柄が、軒並み半導体関連で占められる形になったのです。
ASMLの業績が拡大した日に、なぜ日本の半導体株は売られたのでしょうか。「半導体需要は堅調」という同じ事実が、同じ日に東京市場では逆向きに作用しました。
なぜ好材料が売り材料に変わったか
鍵はASML決算の中身にあります。売上高は拡大しましたが、受注残高の伸びは予想をやや下回りました。ASMLの顧客である台湾や韓国の大型ファウンドリーが設備投資のペースを微妙に調整していることが透けて見えます。半導体の「需要」は増えている。しかし「装置への設備投資」は横ばいか、むしろ慎重化している。この微細な差異が、東京市場の判断に影響を与えました。
日本の半導体関連銘柄の多くは、装置・素材・部品のサプライヤーです。完成品の需要よりも、ファウンドリーの設備投資サイクルに収益が直結しています。ASMLの「増収増益」という見出しではなく、「受注動向の鈍化」という本文を読んだ機関投資家が、ポジションを圧縮したと見るのが自然です。
さらに背景には円安の複合効果もあります。4月15日のドル円は午後5時時点で158円93〜94銭台と、再び円安水準が強まっていました。円安はこの日、銅の国内建値を3カ月ぶり最高値の220万円まで押し上げ、金価格も1カ月ぶり高値に戻しました。製造業の原材料コスト上昇圧力が高まる局面では、装置・素材サプライヤーのマージン圧縮懸念も同時に意識されます。ASMLの好決算が届いたタイミングは、コスト上昇への警戒が高まる瞬間でもあったのです。
一方、同じ日に日経平均全体は続伸して5万8000円台を回復しています。ソフトバンクGが約162円、アドバンテストが約141円を押し上げました。売買代金は9兆2000億円超と活況でした。上がった銘柄と下がった銘柄の分断がくっきりと表れた1日でした。
この逆走が続くかどうかの分岐点
今後の焦点は二つあります。一つは、ASMLが今後公表する詳細な受注データです。受注残が回復に転じるようであれば、今日の売りは過剰反応として巻き戻されます。逆に鈍化が確認されれば、日本のサプライヤー株には構造的な調整が続く可能性があります。
もう一つは、イランとの停戦交渉の行方です。トランプ大統領が「2日以内にパキスタンで再協議」と示唆したことが15日の相場全体を支えました。停戦が実現し、ホルムズ海峡の通行が正常化した場合、原油価格は大きく下落します。原油下落はインフレ圧力を緩和し、FRBの利下げ再開期待を呼び戻します。グロース株全体に追い風となる環境が整えば、ASMLの発表で売られた銘柄にも買いが戻る展開が考えられます。
検証の指標は明確です。今後公表されるASMLの詳細な受注データ——特に2026年後半に向けた新規受注の水準です。3月末時点の受注残が前四半期比でプラスに転じていれば、日本の半導体株の逆走は短命に終わります。マイナスであれば、サプライチェーン全体の再評価が始まると見ておくべきでしょう。
この日の東京市場は、「好決算で売られる」という表面の逆説の裏で、投資家が何を本当に見ているかを示しました。ASMLの数字を信じた人は買いを続け、ASMLの注文動向を読んだ人は売りに回った。どちらが正しかったかは、次の受注データが答えを出します。