CPI月次0.9%|暗号通貨で通行料

2026-04-11 · Nikkei

止まらない2つの時計

3月のCPIが月次0.9%上昇を記録しました。2022年以来最大の月次上昇幅です。同日、ホルムズ海峡では別の数字が動いていました。イランの革命防衛隊が、タンカーに対してビットコイン建ての通行料を課し始めたのです。この2つのニュースを結びつけた投資家は、ほとんどいませんでした。

金曜日のウォール街は、表面上は混乱していませんでした。S&P500は週間で3.56%上昇し、NASDAQはプラス圏で引けました。Bloomberg が報じた「米国株7日続伸の途切れ」は、CPI発表後の反応としては穏やかでした。投資家がインフレデータを冷静に受け止めた、というのが市場の第一解釈です。しかし、その読み方には見えていない部分があります。

CPIの内訳を見ると、コアCPI(食品・エネルギー除く)は年率2.6%でした。エコノミスト予想の2.7%を下回っています。見出しの3.3%は確かに高い。ただし、インフレの中身は一点集中でした。ガソリン価格が単独で、今回のCPI上昇幅の半分以上を押し上げたのです。

ビットコインと石油が結ぶ回路

ここで、ホルムズの暗号通貨通行料が入ってきます。

「イランがタンカーにドル払いではなくビットコインで通行料を要求している」というCBSニュースおよびCNBCの報道が出たのは、CPI発表とほぼ同日でした。これは単なる奇妙なニュースではありません。2つの構造的な事実を内包しています。

一つは、制裁回避の設計変更です。ドル建て取引は米財務省OFACの制裁対象になりえます。ビットコインは直接制裁しにくい。つまりイランは、ホルムズ通行料を「検閲耐性のある収入源」として設計しています。この設計が定着すれば、ホルムズを通る石油取引の一部が、ドル決済システムの外に出ることになります。

もう一つは、エネルギー価格の下限設定です。ロイズ・リスト・インテリジェンスの分析によれば、革命防衛隊はすでに少なくとも2隻のタンカーに通関コードと護衛付き通行を要求しました。通行料が課されるたびに、それは輸送コストに上乗せされ、最終的に小売ガソリン価格へと転嫁されます。CPI上昇の半分以上をガソリンが占めた今月のデータは、この回路の「最初の計測値」です。

この2つをつなぐ共通因数は、ホルムズ通行量の回復ペースです。停戦合意後も、ストレートを通る船舶は通常時の数分の一の水準にとどまっています。通行量が回復すれば通行料収入が増え、石油供給が増加する一方でイランの暗号資産保有も膨らむ。回復しなければ、石油価格の高止まりが続き、次月CPIも再上昇する。どちらの経路でも、エネルギー価格は構造的に下がりにくい状態が続きます。

Fed官僚が「利上げを排除しない」と述べたのは、この構造を念頭に置いてのことです。Yahooファイナンスが報じた「Fed高官が利上げを再びテーブルに乗せた」という発言は、コアCPIの穏やかさとは関係ありません。エネルギーという「制御不能な変数」が、次月以降も同様の数字を出し続けると判断しているためです。

どこで分かれるか

予測市場はすでに動いています。24/7 Wall Streetが伝えたデータによれば、2026年中にCPIが4%を超える確率を63%と見る水準まで市場は織り込みを進めました。ただし、この数字には一つの前提があります。ホルムズの通行料体制が維持されること、そして停戦が長期化しないことです。

逆のシナリオも存在します。米国・イラン交渉が本格化し、通行料体制が撤廃されれば、石油供給は急速に正常化に向かいます。エネルギーを除いたコアCPIはすでに鈍化傾向にあり、供給正常化が加われば次月CPIは3.0%以下に戻る可能性があります。Fedの利上げ論は消え、金融株と長期債の両方にとってプラスの展開です。

証拠の重みは、現状維持のシナリオにやや傾いています。革命防衛隊の通行料徴収は体制として組み込まれており、一度始まった収入源を放棄する動機は、停戦中のイラン政府にはほとんどありません。CoreWeaveとAnthropic、MetaといったAIクラウド企業がデータセンター電力需要を押し上げ続ける中、エネルギー需要の構造的増加も重なっています。

ただし、これが崩れるとすれば一つのシグナルが先行します。来週のホルムズ通過タンカー数です。通常水準の50%超に回復すれば、供給正常化への転換点として機能し、次月CPIは下方サプライズを起こしえます。50%を下回って推移するなら、5月のCPIは再び3%台後半に向かう可能性が高い。Fedの次の一手は、この数字が決めることになります。