キオクシアHD(285A)急騰後急落|DRAMカルテル訴訟で「高価格持続」前提が崩壊リスク

· Nikkei

第1章:Goldman格上げとマイクロン決算がキオクシアを動かした日

キオクシアHD(285A)は6月29日、日経平均構成銘柄の中で最大の上昇率を記録した。上昇率10.91%、売買代金は単日で4兆円を超え、あの日の東京市場で最も資金が集中した銘柄となった。 しかし翌日は4.05%下落。寄前の板では「売りトップ:キオクシア」の表示が複数日連続で並んだ。急騰と急落が交互に繰り返されるこの動きの根っこには、一本の数字がある。 マイクロン・テクノロジーが6月30日に発表した2026年度第3四半期決算だ。売上高は前年同期の93億ドルから4倍以上に急増し、414億ドル(約6.7兆円)に達した。非GAAPベースの粗利益率は同社史上最高となる84.9%を記録し、コンセンサス予想を23.8%上回った。 この数字がキオクシアを動かしたのは、「メモリ価格が高止まりする」という読みが市場に一気に広がったからだ。ゴールドマン・サックス証券が投資判断を格上げし、個人の買い予想数ランキングでもキオクシアが首位に立った。 だがここで問われるのは、「なぜマイクロンが4倍の決算を出せたのか」という構造だ。その答えが、キオクシアの株価を長期で支えるかどうかを決める。

第2章:「好不況サイクルの終焉」を謳う1000億ドル契約の論理

マイクロンが今回の決算で最も強調したのは、売上高の数字そのものではなかった。16件の「戦略的顧客契約(SCA)」の構造だ。 これは「テイク・オア・ペイ」方式、つまり市場価格が下落しても顧客が合意数量を購入義務を負う契約で、累積最小売上コミットメントは計1000億ドル(約16.2兆円)に上る。契約内には粗利益率の「価格フロア」が設定されており、過去30年のDRAMサイクルで達成されたことのない水準を保証している。 なぜこれほど強気な契約が結べたのか。根拠は供給構造にある。AIサーバーはGPUに近接させるHBM(高帯域幅メモリ)を大量に必要とする。マイクロンはHBM生産にウェハーを優先的に振り向けているため、汎用DRAMの供給は減少し続けている。TrendForceの最新予測では、2026年第3四半期のDRAM契約価格は前四半期比13〜18%の上昇を見込む。 マイクロンCEOは「メモリ供給がいつ需要に追いつくか、現時点では見通せない」と述べた。新工場からの本格出荷は2028年以降という。汎用DRAMのスポット価格はすでに1年で300%超の上昇となり、一部旧世代品では7倍に達する。 キオクシアはこの「HBMシフトによる汎用品品薄」の直接的な受益者と位置づけられる。消費者向けメモリで世界最大級の生産能力を持つキオクシアのNANDフラッシュも、AIデータセンター向けSSD需要に乗っている。 だがここで一つの問いが生まれる。「増産しないのは需要不足のためか、それとも意図的な絞り込みか」——この問いに対し、今週、全く異なる答えが別の法廷で提出された。

第3章:「700%高騰はカルテルの結果」——集団訴訟が突きつけた矛盾

カリフォルニア連邦裁判所に提起された集団訴訟の訴状は、マイクロンの決算説明とは真逆の主張を展開する。 サムスン電子、SKハイニックス、マイクロンの3社は2022年以降、「ほぼ同時に」DRAMの製造を意図的に絞り、AIデータセンター向けHBMへ生産をシフトした。その結果、2024年からのAI需要でDRAMが約700%高騰した。にもかかわらず、3社は汎用DRAMの生産拡大を行わなかった——訴状の核心はここだ。 訴状はさらに、これが今回で3度目のサイクルだと主張する。1998〜2002年の米司法省調査(サムスンとSKハイニックスに有罪認定)、2016〜2018年の集団訴訟に続く、構造的なパターンとして描く。 一方でマイクロンの経営陣は「テイク・オア・ペイ契約は供給の可視性を高めるためであり、需要が本物だから長期契約が締結できた」と説明する。どちらが正しいかは法廷が判断することだが、市場にとって問題は別にある。 マイクロンのSCA(長期契約)の「価格フロア」は、汎用DRAMが高止まりし続けることを前提に設計されている。もしカルテル認定によって各社が増産を強制された場合、または規制当局が介入して価格下限契約を無効とした場合、このフロアは機能しなくなる。 キオクシアの株価を支える「高価格持続」というシナリオは、この訴訟の行方と直結している。Goldman Sachsが格上げした根拠も、TrendForceが13〜18%上昇を予測する根拠も、HBMシフトによる「需給ギャップが2028年まで続く」という前提に依存している。その前提が「意図的な操作」と認定されれば、前提ごと崩れる。 これが、キオクシア株に資金が集中しながらも「売りトップ」が複数日並ぶという、相反する行動の正体だ。機関投資家は格上げ根拠(需給の構造的逼迫)を信じて買い、一方では「供給操作リスクが顕在化すれば評価が一変する」という判断から手じまいする別の参加者が出ている。同じ事実を見て、真逆の行動をとっている。

第4章:ホルダーと観察者、それぞれが見るべき1つの変数

キオクシアを保有している投資家が確認すべきことと、まだ入っていない投資家が確認すべきことは、実は同じ変数に行き着く。 それは、TrendForce(または類似機関)が7月中旬以降に公表する2026年第3四半期DRAM契約価格の実績値だ。TrendForceの今回の予測(前四半期比+13〜18%)が実績として確認されれば、「HBMシフトによる需給逼迫は本物」という読みが補強される。一方、実績が予測を大幅に下回った場合——特に前四半期比で横ばいまたは下落に転じた場合——それは「需給よりも買い手の購入抑制が先行している」サインであり、カルテル認定リスクとは別に、価格フロアの実効性そのものが問われ始める。 マイクロンのSCA(長期供給契約)の初回履行報告も同時期の注目点だ。顧客が「テイク・オア・ペイ」契約に基づき実際に予定量を購入しているか否かが、1000億ドル契約の信頼性を裏付ける第一の証拠になる。 訴訟リスクについては、現段階でカルテルが認定されたわけではない。ただし、過去2回のサイクル(1998〜2002年、2016〜2018年)では調査から最終決着まで2〜4年を要した。短期の株価には、訴訟の進捗報道ではなく「価格実績が予測を裏付けるか否か」の方が先に影響する。 保有者にとってこのポジションがエントリー維持に値するのは、Q3 DRAM価格実績が+10%以上を確認した時だ。それを下回るか、規制当局の調査開示が出た時が、見直しの起点となる。まだ保有していない投資家にとっては、今から入ることは「好不況サイクルの終焉」論に賭けることを意味する。その賭けの答えは、7月中旬のTrendForce価格実績が最初に示す。

Link copied