キオクシア好決算|株価急落は終わるか?

· Nikkei

好決算の限界

キオクシアHDの今回の好決算は、株価急落を終わらせる決定打ではありません。7月31日発表の2027年3月期第1四半期は、売上収益1兆7671億円、営業利益1兆2700億円、純利益8421億円と、いずれも前年同期から大幅に拡大しました。AIサーバー向けを中心にNAND需要が伸び、販売単価と出荷量が押し上げたためです。ただし、7〜9月も需要と利益が続くのか、そしてその利益を株価がすでに織り込んでいないのかは、まだ決着していません。

急落の背景

決算前の市場では、キオクシアはAI半導体相場の象徴でした。6月22日に11万2700円を付けた株価は、7月30日には3万6020円まで下落し、わずか5週間ほどで68%下げています。上場後まもなく株価が約70倍となり、一時は国内最大の時価総額に達した銘柄だけに、急落は需要そのものが崩れたようにも見えました。

事業は失速したのか

しかし、今回の決算が示したのは別の事実です。データセンター向けSSDやNANDの需要は実際に増え、販売価格も上がり、出荷量も伸びています。楽天証券の分析では、平均販売単価は前の四半期から約70%上昇し、SSD・ストレージ部門の売上高も大きく拡大しました。つまり、株価が下がったからといって、直ちに事業の失速を意味するわけではありません。

利益の経路

利益に至る経路も明確です。AIデータセンターが必要とする保存容量が増えると、キオクシアのNANDやSSDの販売数量が増えます。供給が追いつきにくい局面では販売単価も上がり、売上高だけでなく営業利益まで膨らみます。会社側は7〜9月もデータセンター需要が旺盛で、販売価格と数量の増加を見込んでいます。

AIストレージ企業への転換

ただ、ここで二つ目の読み方が必要になります。キオクシアは単なるメモリー市況株から、AI向けストレージ企業へ移ろうとしている可能性があります。7月には、ハイパースケール顧客向けに、直接液冷に対応したPCIe 5.0のデータセンターSSD「NX1」のサンプル出荷を始めました。前世代より書き込み性能を高め、AIサーバーの電力効率や冷却にも対応する製品です。

証拠の空白

もっとも、サンプル出荷は売上計上や大型契約の証明ではありません。AI向け製品の技術力が確認できても、それが継続的な数量と利益率に変わるかは別問題です。ここは、今回の決算だけでは埋まらない証拠の空白です。

同業他社が動かす株価

実際、株価は自社の業績だけで動いていません。8月5日に発表されたサンディスクの4〜6月期決算は、AIデータセンター向け売上高が前年同期の14倍に増えました。それでも7〜9月の売上高見通しが市場予想に届かないと、サンディスク株は下落し、キオクシアHDも悪影響を受けました。これは、AI需要があるかどうかだけでなく、その伸びが市場の期待を上回るかどうかが、短期の株価を左右しているということです。これは記事からの推論ですが、キオクシアの値付けが同業他社の見通しにも敏感になっていることを示します。

競争の継続

競争も続きます。サムスンは従来品より記憶密度を約58%高めた次世代V-NAND試作品を発表し、AI向けの大容量ストレージ需要を取り込もうとしています。キオクシアの需要が構造的に増えていても、そのすべてを同社が独占できる根拠はまだありません。

利益の質

さらに、米国の特許訴訟では約366億円の賠償判決が出ました。キオクシアは控訴を含む法的手段を取る方針で、損失引当金はすでに四半期決算に計上済みのため、現時点で追加の業績影響はないと説明しています。それでも、急拡大した利益の中には訴訟費用や株式報酬費用、出荷の期ずれも含まれており、利益の全てが平常状態を表しているわけではありません。

自社株買いと分割

8月3日には、自社株買いと株式分割が好感され、株価は一時8.8%高の5万0600円まで上昇しました。ただし、株式分割は買いやすさを変えるだけで、利益を増やすものではありません。自社株買いも株式需給を支えますが、NAND価格や出荷量が下がれば、事業の問題を消すことはできません。

見直すべき視点

保有者が見直すべきなのは、「好決算だから株価も戻る」という単純な見方です。今回確認できたのは、AI向けNAND需要と価格上昇が実際の利益につながっていること。一方で、株価は同業の見通し、期待の高さ、訴訟や需給にも動かされています。これから見る側は、買い戻しの強さよりも、利益の源泉が次の四半期にも再現されるかを確認する必要があります。

次の決算が checkpoint

現時点の最も強い判断は、キオクシアの業績回復が見せかけではなく、NAND・AI需要が続くサイクルの中で起きているということです。ただし、それを長期的な構造変化と呼ぶには、AI向け製品のサンプル出荷が継続的な売上に変わり、7〜9月に販売単価と数量の増加が実現する必要があります。次の決算でこの二つが確認できるかどうかが、急落後の株価を考えるうえでの最初の checkpoint になります。

Link copied