ブロードコム急落で日経931円安|銀行株だけ逆行高の理由

· Nikkei

AI株崩落の構造

日経平均(998)が前日比931円安の6万7470円で引けた6月4日、情報・通信セクターの売りは前場後半に1481円安という水準まで拡大しました。しかし全面売りに見えたこの日、銀行セクターだけは上昇で終えています。この乖離が、今日の相場の本質的な問いです。

起点は米国の決算発表後にありました。半導体大手ブロードコム(AVGO)が時間外取引で急落したことを受け、東京市場寄り付きから外国人投資家によるAI関連銘柄への売りが加速しました。イビデン(4062)やフジクラ(5803)といった国内のデータセンター関連銘柄が大幅安となり、日経平均の押し下げ寄与上位に並んだのは、この外国人フローが一斉に同一方向へ向かった結果です。

前日に1600円超上昇していたという事実が、この売りの規模を増幅させました。短期的な過熱感を根拠に利益確定の売りを出す意思が事前に高まっていたところへ、ブロードコムの決算が引き金を引いた形です。山和証券のストラテジストが「昨日は想定外に大きく上昇したため、過熱感で利益確定売りが出た」と述べたように、この売りはポジション構造が元々持っていた圧力の解放であり、ブロードコムの決算が新たな情報を加えたというより既存の不安定さを顕在化させたものです。

売買代金は10兆1762億円に達し、キオクシアホールディングス(6600)、ソフトバンクグループ(9984)、村田製作所(6981)が上位を占めました。ソフトバンクグループは8%超の急落で日経平均を735円押し下げており、指数インパクトの大半がこの1銘柄に集中しています。AI投資テーマを軸に急騰してきた銘柄ほど売りが集中したという配分構造は、今日の利益確定売りが個別材料ではなくセクター全体の加重見直しとして実行されたことを示しています。

ただし、後場に入ると下げ渋りが続き、6万7300円台を軸に一進一退となりました。全面売りが続かなかったのは、この利益確定圧力と同時に、まったく別の資金移動が始まっていたためです。

日銀1%利上げと銀行逆行

午後1時半過ぎ、ブルームバーグが複数の関係者の話として「日銀が今月15・16日の金融政策決定会合で政策金利を0.25ポイント引き上げ1%とする方向で検討している、年内に追加利上げの可能性もある」と報じました。この報道を受け、三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)をはじめとする銀行株が後場に急伸し、売買代金の上位に浮上しています。AI株の崩落が続く中で、国内機関投資家によるセクター間の資金移動が、銀行株の買いという形で可視化された瞬間です。

植田和男総裁は3日の講演で「物価上昇率が大きく上振れていくリスクへの警戒を優先する」と述べ、中東情勢が不透明でも「利上げの是非をしっかりと議論する必要がある」と明言しました。原油高が引き起こすインフレの二次波及、つまり人々の予想物価上昇率の上昇を通じた基調的インフレの上振れを、日銀は今や景気の下振れよりも危険と判断しています。この判断の転換が、市場参加者の銀行株再評価の根拠となりました。

利上げが実現すれば昨年12月以来4会合ぶりで、1%という水準は1995年9月以来約30年ぶりの高さです。こうした歴史的水準への到達が、単なる0.25%の利上げにとどまらず、金利正常化サイクルの継続を意識させ、銀行の利ざや拡大期待を前倒しで織り込む流れを生じさせています。市場の日銀6月利上げ予想は9割に迫っており、今日の時点でほぼ織り込まれた状態です。

しかし、ドル円は報道を受けて一時159.61円まで下落した後、すぐに159.80円台へ戻しました。「6月利上げはほぼ織り込み済みで、原油高による貿易赤字拡大懸念や金利差を背景に円安は続く」という見方が為替市場では優勢です。銀行株が上昇した資金は、AI株から回転してきたものであり、円高進行を前提とした新規の外国人フローではありません。

この構造が意味することは一つです。今日の銀行株上昇は日銀利上げという新材料への反応ではなく、AI株の利益確定売りによって解放された資金が、金利上昇局面で相対的に有利なセクターへと移動したという国内の資金循環です。AI・データセンター関連への資金集中という構図は当面続くと見られていますが、その構図が崩れる条件として、志田氏が指摘した「米国の利上げ観測の一段の高まりによる米ハイテク株安」が残っています。6月15・16日の金融政策決定会合で実際に1%への利上げが決定され、かつ年内追加利上げの期待が折り込まれ続けた場合、銀行への資金移動が今日の一日で終わらない可能性があります。それが崩れるのは、利上げ決定にもかかわらず長期金利のボラティリティが急上昇し、銀行の国債含み損懸念が再燃するときです。

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