三菱電機|地震停止でも上方修正21.4%増の真意

· Nikkei

地震停止と上方修正の同時発生

三菱電機の株が今、二つの相反するニュースの間に立っている。7月28日、震度7の熊本地震で、同社の菊池市と合志市にあるパワー半導体工場の操業が止まった。ところがわずか3日後の7月31日、会社は2027年3月期の連結純利益予想を、従来の4750億円から4950億円へ、前年比21.4%増に上方修正したと発表した。工場が止まっているのに、利益予想は上がる。この矛盾がまず視聴者の目を引く。

日経クロステックの報道によれば、三菱電機は菊池市でSiCパワー半導体の前工程、合志市でパワー半導体の前工程を担っている。いずれも建屋に大きな損傷は確認されていないが、生産設備や生産計画への影響を調査中で、再開時期は明らかにされていない。一方、長崎県と福岡県にある組み立て工程の工場はすでに安全確認を終え、生産を再開した。つまり止まっているのは前工程の一部に限られる。ソニーグループやルネサスエレクトロニクスの工場も同時に停止しており、これは三菱電機だけの問題ではなく、熊本の半導体サプライチェーン全体を巻き込んだ地震だ。

では、なぜ利益予想が上がったのか。ロイターの報道では、上方修正の理由として人工知能や半導体関連の需要増加、そして4から6月期の為替が想定より円安で推移したことが挙げられている。これは地震後の話ではない。地震発生前から積み上がっていた4から6月期の実績を反映した数字だ。つまり今回の上方修正は、地震の影響が本格的に業績へ反映される前の段階のもので、地震の被害を打ち消して余りある好材料が出た、という単純な話ではない。答えは一段深まる。上方修正は既に確定した実績の話であり、地震はこれから顕在化するリスクだ。

止まっているのは「どこ」か

日本経済新聞の報道は、過去の教訓を伝えている。2016年の熊本地震では、ソニーグループの画像センサー工場が高層階の設備被害により全工程再開まで3カ月半を要した。その後、業界全体で建屋や設備の耐震性強化が進み、ソニーは2カ月以内に復旧できる体制を整えたという。ルネサスも東日本大震災を教訓に耐震強化を進め、2016年の熊本地震では本震から1週間程度で生産を再開した実績がある。つまり半導体業界は、この種の地震リスクに対して既に一定の備えを積み重ねてきた。

しかし今回のリスクは工場の建屋だけでは測れない。半導体工場は振動に敏感な数百の工程を経て回路を形成し、ウエハーの投入から出荷まで一般的に3カ月ほどを要する。仕掛品にわずかでも損傷があれば、その分は廃棄せざるを得ない。三菱電機の両工場は建屋損傷こそ確認されていないが、生産設備や仕掛品への影響はまだ調査中の段階にある。ここが今回の焦点だ。建屋が無事でも、仕掛かり中のウエハーが影響を受けていれば、再開後も出荷再開まで数カ月を要する可能性が残る。

三菱電機にとって、止まっている工場が担うのはパワー半導体の前工程だ。同社は今月、xEV向けの第5世代SiC-MOSFETチップのサンプル提供を始めたばかりで、パワー半導体はデータセンター向け冷却システム事業の拡大とともに、同社が力を入れる成長領域の川上に位置する。上方修正を支えたAI・半導体需要の追い風そのものを生む工程が、地震で止まっているという構図になる。好材料と悪材料が、実は同じ事業ラインの入口と出口で同時に起きている。

織り込み済みか、これからか

決算速報によれば、三菱電機の1Q税引前利益は1570億7700万円で、アナリスト予想を上回った。そして今回上方修正された通期純利益予想4950億円は、IBESがまとめたアナリスト14人の予想平均4948億円とほぼ同水準だ。つまり市場はすでにこの水準を織り込んでおり、上方修正それ自体はサプライズではない。株価にとって本当の分岐点は、地震で止まった前工程がいつ、どの程度の影響で再開するかという、まだ数字になっていない部分にある。

三菱電機は両工場の再開時期を明らかにしていない。これは同社に限った話ではなく、同じく熊本で被災したソニーグループやルネサスエレクトロニクスも同様に再開のめどを示せていない。業界として耐震対策を積み重ねてきたにもかかわらず、今回どこまでその備えが効くのかは、まだ検証されていない。次の決算、あるいは工場の稼働再開発表が、今回の上方修正が地震前の話で終わるのか、それとも下期に響くのかを分ける具体的な確認点になる。

現時点で言えるのは、7月31日の上方修正がAI関連需要と円安という4から6月期の追い風を映したものであり、地震の影響を織り込んだ数字ではないということだ。地震が業績にどう響くかは、まだ観測されていない変数として残っている。保有者にとっても、これから参入を検討する人にとっても、次に見るべきは決算そのものではなく、菊池市と合志市の工場再開に関する会社発表だ。そこで初めて、今回の好材料と悪材料のどちらが最終的に業績を動かすかが明らかになる。

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